Novalis | ナノ


食った





誰もいないと分かっていてもただいまと一言口にしてから入る。微妙にこだまして返ってくる自分の声がより一人だということを私に叩きつけて悲しくなる。

のが日々のそれなんだけど今日はまたお兄さん拾ってきちゃったから気にしていられなかった。
シャワーを浴びるように言って、また緩めのジャージを探す。ふっ、二度目だというのにこの変な慣れ様…なんか視界が歪む。

とりあえず何か暖かいものを作ろうか…夕飯には少し早いけど、まぁいいでしょ。


そうして早めの夕飯を作っていればお兄さんはすぐに出てきて、ゆっくりお風呂に浸かればいいのにと振り向けばリビングに入ったところで頭にタオルを被せて突っ立ったままだった。しかも髪の毛まだ濡れて…



「ちょっ、ちょお兄さん風邪引きますよ!!」



それにカーペット濡れる…のは置いといて、火を消してお兄さんに近づく。



「やっぱり濡れていることが趣味だったんですか、否定はしませんけどあまり長くそのままでいないでください、風邪引きますってば」

「……私は特に気にしない」

「してください!ほらこっちにかけて拭いてください」

「貴様が拭けばいいだろう」

「え?」



入り口付近でほっとくのもなんだからとソファへと腕を引けばなんてことはないような顔でそう言いやがりました。



「え、お兄さんそれってつまり私に拭けってことでしょうか」

「くどい」



えぇー…
お兄さんはそれだけいうと我が物のようにどかっとソファに座り(多分)私が彼の髪を拭くのをじっと待つ。


…拭きざるを得ない状況に…。
ええーいっ、やったれぃ!!この際もうなんでもいいっ!お兄さんに風邪を引かせないようにするのが最優先事項だっ!


わしゃわしゃと恨みを込めて乱暴に拭…きたいが出来ず、自分の頭皮も味わったことのない優しさと丁寧さで髪を拭いてやる。すると心地いいと感じてもらえてるのか、先程よりもお兄さんの肩の力が抜けたことがわかった。
大体の水滴は拭い去れたのでとタオルを片付けるとムッとされた。いや知らんよ…いつまでもお兄さんの髪を拭いてたら夕飯の支度ができないでしょ…



「今夕飯を用意するのでテレビでも見てゆっくり待っててくださいねー」



決めた。一々お兄さんの反応を確認していては多分何一つとしてことが進まない気がする。だからごめんねお兄さん。しばらくは無視する。
といっても長い間放置プレイをするわけにもいかないから早く準備しなきゃと忙しなくキッチンを行き来しているとぬっとお兄さんが顔を覗かせてきた。
…早々に無視するって決断が破れそうだよ…



「喉でも乾きました?」



ほらぁ…



「………」

「……あれ?違った?」



つい口調が崩れてしまったがお兄さんの言葉を促すように見つめても一向に何かを発することなく無言で見つめてくる…から、困った。

…どうしよう…








台所で女があちこち動き回る。そんなに反復するくらいならなぜ各箇所でやるべきことをまとめて持っていかない。その方が格段に早い上に負担も少ないはずだ。
私が口を出せるようなことではないので何も言わないが…しかし先程から背後でうろちょろと感じる気配が鬱陶しい。女は確か、夕飯を用意するといっていた。私に待てというくらいだから私の分もあるのだろうが…ふむ、働かざる者食うべからずと刑部が言っていた。
…運ぶくらいなら手伝ってやろう、と席を立つ。



「喉でも乾きました?」

「………」



……………………なんと言えばいいのだろう。刑部がここにいればなんと言うのだろう。
考えても言葉は出てこず、ならば何も言わずに運べばいいと思うもののどれを運べばいいのか、何を私は手伝えるのか、女が今何をしていたのかすら皆目見当もつかん。それどころか台所をこうもまじまじと見るのは…あれだ、………察しろ。
何のために置いてあるのかわからないものばかりに溢れていて少し頭が痛くなったような気がした。
さて、どうしたものか、



「もうちょっと待っててくださいね、ソースかけたらあとは持っていくだけだから」



そう考えたとき、女がそう言った。それだ、



「私が持っていく」

「え、あ、いや良いですよッ、私がやりますから!」

「私がやる」

「いやっでも、仮にもお兄さんはお客様ですしっ」

「うるさいやると言ったらやる…ッ」



ッ、
つい…きつい物言いになってしまった…。
しかし今のは女に非がある。私がやるといったことに対してくどいほど食い下がってくるからああなるんだ。…別に悪いなどとは思っていない、私は悪くない。
ちらと女の顔を見れば驚いた顔をしていた。が、すぐに破顔し、情けないほどの笑みを浮かべて言った。















じゃあお願いします

(お味はいかがですか?)
(…食えなくはない)
(なんかびみょーですね、次頑張ります)
((……次…))





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