Novalis | ナノ


妬いた





一度人が使ったものを、まだ使えるからと安く他人に明け渡す所があると聞いた。



「三成さんはどらがいいですか」

「…どれでもいい」



合理的だと思ったが正直私はどうでもいい。
どれもどこの馬の骨とも知れん輩が使っていたのならば変わりがないように見えた。…金を払ってまで使おうとも思わん。

しかしこの女は物好きにも、楽しそうに物を見ている。"これは傷が少ないですねー"などと…。それを手に入れたところで私以外に持ち主が居たということは変わらないというのに。


まずこの店にいる時点で裏切り行為に当たる。要らぬと思われてたことに始まり、手放されたことを理由に他者の元へ行こうなどと…。
しかしここで別の所有者を見つけることで以前の所有者に金が入るというのなら…手放される最後まで、忠義を貫いたことになる。その上新たな所有者の元に安く買われた割にはそれ以上の働きを見せることもある…ことで感謝よ意を示せている。

……そう考えれば中々使える連中に思えなくもない。



「……、?」



ふと女の問いかけてくる声が聞こえなくなったことに気づいた。
先程まで私がいかに適当に返事をしていようが問いを切り捨てようが気にした様子もなく次々と物を見繕っては見せてきていたのに。

視線を回りに向ける。勝手にはぐれて迷子など許さん。貴様を探す手間をかけさせるな



「――――……、――…」

「!」



そこか。

女の声が小さくだが、した。おそらく先程よりは私から離れているのだろう。そこから私に問いかけたところで私に届くはずもないというのに馬鹿な女だ。一つ罵倒の言葉でも浴びせるかと視線をそちらに向けた



「……――!」

「――………、―……――――」

「―――…、……………、」



「……」



女が、見知らぬ男と話しているのが見えた。

随分と、…親しげにしている。




…気に入らん。

何故そんなやつと口をきいている。
私を勝手に連れてきておきながら私を放って、家具を選ぶことも止めて…

元々の目的を捨て、行動に対する責任すら取れないほどその男との会話は重要か。


気に入らん…気に入らん、その口を噤め、目を閉じろ、離れろ、笑うな、おい、……



…聞け、その男ではなく私の声を。
視界に映す相手を間違えているぞ、ッ、きさ…貴様ァ…!!!

私の許可なく他人に触れられようとするなァ…ッ、



「名前!!!!」

「っ!!み、三成さん!そちらにいらしたんですか」

「ん?誰?」



知らん顔が、私と名前の会話を遮るなッ!!名を訊かれる筋合いもなければ貴様に名乗る名もないッ!!!!

腸が煮え返るような感覚がこの言葉を口にする余裕を私から奪う。


そして気づいたときには女の手を掴んで、その場を後にしていた












「三成さんっ、みつ……痛いっ」



お兄さんが気に入りそうなクローゼットを見つけて、白にしようか黒にしようか迷ってると後ろから同僚に声をかけられた。会社が近いとはいえまさか本当に誰かに会うとは思わなかったからビックリした。
しばらく会話に花を咲かせていれば急に名前を叫んだ三成さんがすごい形相で来たものだからさらにビックリ。

どうしたのか訊いても一向に答えてくれず、ずるずると引っ張られ(同僚には申し訳ないことをした…今度謝っておこう)、車を停めたところまであともう少しというところでさすがに手首に限界が来て、痛みを訴えた。



「痛いです…三成さん…」

「…………」



もう一度言えば手を放してもらえた。お兄さんはそのまま、こちらを見ることも立ち止まることも、何を言うこともなく淡々と車まで歩いて、私も追いかけるので精一杯だった。
車に着くとお兄さんは助手席側のドアの前で止まって、慌てて鍵を開けて自分も乗る。



まだ続く沈黙、

…どうしよう。本当にどうしたらいいんだろう。



引かれている間しきりにどうしたのか聞いた。それでもお兄さんは答えてくれなくて、もしかしたら彼も彼で自分に何が起きたのかとか色々と整理できなくてぐちゃぐちゃになっているのかもしれない。
お兄さんはビックリするほど真っ直ぐだから、色んなことを一度にそうやって向き合おうとすれば混乱するのが普通だ。

そうか、
うん、そうだ…。

そっか、……



「よしよし…」



手を精一杯伸ばして、頑張ってみた。
なんでこんなことをしたのか、しているのか、…私自身わからなかったけどやりたかった。

お兄さんの髪はすごくさらさらで、するすると指を通り抜ける銀髪はキラキラしているように見えて、改めて綺麗だと見とれた。


しばらくそうしていると固まっていたお兄さんも次第に身を預けるように目を閉じてくれて…、
ああ…。なんだか愛しいなぁと胸が甘い痺れに襲われた。



「…もういい」

「あ、」



ふい、と顔を窓側に背けられる。その反動でやっと届いていた手も離れてしまって、なんだか寂しく感じた



「…少しは落ち着きました?」

「……」

「そう。それはよかったです」



こくりと、小さくだけど確かにお兄さんは頷いてくれた。

ああ、よかった。なんかすごい安心感が…、

なんで急に引っ張ったのか気になるけど、多分聞いたらお兄さんはまた機嫌を崩してしまうだろうから我慢。もしかしたら一緒にいるうちにもっとお兄さんのことが分かって、なんでそういう行動に至ったのか聞かずとも分かる日が来るかもしれない。


…さっき、"私の行動に疑問を持つな"って言っていたのはこういうことなのかもしれない。
だとしたらすごい。私の私の考えが及ばないような発言をするのは、それだけ私に気を許してくれてるということにもなるから…ふふ、


やっぱり、愛しいなぁ…








妬いた

((もうこの際末期でもいいや)…あ、家具買ってない)

(…私が使っていたのを持っていけばいい)

((はじめからそうしたかった…))






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