Novalis | ナノ


躾けた





何をどう考えたのか、うちにこの頃通っていたお兄さんこと三成さんが荷物片手に"ここに住む"宣言をしやがりました。



「嘘でしょ…」

「嘘などつかん」

「どうしてこうなった…」

「私の行動に疑問を持つな。異論も認めん」



…最近気づいたけど、彼は人の話を聞かない上に是が非でも自分を通してくる。その驚くほどのわがままを愛しく思えてくる近頃の私は末期なんだろう…はは…



「あー……じゃあ、適当にどうぞ」



……末期だからかな、うん。彼の居候を許可したのは。
もうこの際そんな小さなことを気にするのはやめよう。問題はそこじゃないの。そう、彼がどこで寝るかにあるの。間取りは1LDKだから…え、リビング?お兄さんの自室リビング?
確かに見たところ荷物はなんだか少ないからスペースには困らないだろうけど…



「三成さん」

「…なんだ」

「お荷物はどうされますか」

「任せる」



Oh my god…なんということでしょう…。
え、どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしようどうs(とりあえず寝台はリビングのソファー使ってもらおう、幸いソファーベッドだし。でもリビングがなくなるのは嫌だなぁ…んんんん……まぁそこはまたあとでなんとかなるとして、クローゼット…で寝具は…え、買うの?うわ、



「…何か部屋にいるものはありますか」

「ない」

「……」



清々しいまでの即答。こういうお兄さんの無頓着なところを見てしまうと、なんだろう…お兄さんがわがままなのかどうか、分からなくなってくる…あ、両極端か。そうか。

…さて、



「三成さん」

「……なんだ」

「出掛けましょう」

「この時間にか」

「まだ夕方なので大丈夫」



そうと決まればほら早くと背中を押す。リサイクルショップに行こう。そこなら諭吉さんを犠牲にせずに済むだろうし…
んふふ、なんか突然のハプニングではあるけれど、同居人が居るということは一人じゃないっていう不思議な安心感をくれる。なんてポジティブに考えてしまう。楽しみになってきた



「あ、三成さん、おうちにある三成さんのお布団って家に持ってこれます?」

「要らん」

「要ります!!持ってきても大丈夫ならわざわざ新しいものを買わなくて済むので出費を押さえられて助かります!」



季節が変わったのに気づいたのは急に朝晩が冷えだした頃だっただろうか…。葉の色はまだ変わっていないけど、それでも出かける時にかけるものは必要になってくる。
全くかける様子のないマフラーがお兄さんの右手にある。さっき家に来た時も荷物と一緒に手にしていた。

まったく、また風邪でも引いたらどうするつもりなんだとそれをとって巻いてやればはじめ驚いた顔をされたけど大人しくしてくれた。


家を出て車に乗る。
助手席にお兄さんを乗せるのはこれで三度目だけどはじめの一回は意識がなかったからお兄さんにはカウントされていないかもしれない



「シートベルトしてくださいね」

「何故だ」

「危ないからですよ」

「………………貴様そんなに下手なのか」

「違う!!」



この人は今まで何を移動手段としてきたのだろうか。いや、まぁ…公共交通機関なんだろうけど。常識がないというか簡潔された世界にいるというか…

リサイクルショップは家より会社に近くてもしかしたら同僚に会えるかもしれないなんて思いながらいつもより安全運転を心がけて向かう。お兄さんはシートベルトに違和感を感じてるようでしきりにモゾモゾ動いて…あ、



「はずしちゃダメですよ」

「何故だッ」

「だから危ないんですって」

「貴様が安全に操縦すれば問題ないッ」

「万が一――」

「などないっ!!」



違和感に耐えられなくなったのかガチャッと車内に特有の金属音がした。
んんぁあああもうっ、こっちはまだ免許を取って一年たってないのにっ、そんなっもう!!

意識してしまえば気が気じゃなくなって、ただでさえ一人分の命がこの両手にかかってるってので震えそうなのにシートベルトしてくれてないとなるとヤバイ、まずい。急いで空いている駐車場を見つけて車を止めることしかできない。



「着いたのか」

「まだです」

「…なぜ止めた」

「三成さんがシートベルト外すからですよ!そんなにしたくないなら後部座席に移ってください!」

「それでは前が見えん」



…〜〜っ!!!!!ああいえばこういう!!!

勝てる気がしないし勝つ気力もない…。いいや、リサイクルショップまで歩こ…一番安全だ。
シートベルトをはずして車を降りれば首を傾げながらも同じようにしてくれた。そしてロックをかける。



「まだついてないんじゃなかったのか」

「…歩きます」

「何故――」

「三成さんが言うこと聞いてくれないからですよ」

「………」



お兄さんの言葉を遮ったのは初めてだ。
普段も人の話は遮らない方なんだけど…でもそれだけ私が怒ってるんだってわかってもらえればいいんだ。…別にそんな、怒ってるってほどでもないけど…。


お兄さんは何も言わずについてくる、
あまり物を喋らない人だからお兄さんといるときの沈黙なんて何度もあったけど、今みたいに気まずいと思ったのは初めてだ。すごく、居心地が悪い。



「……おい」



それから2qくらい歩いたところのリサイクルショップが見えた頃。



「…なんですか」

「………帰りは、つける」



呼ばれて振り返ればひどく罰の悪そうな顔で、しかしまっすぐ目を見てそう言われた。



「……言いましたね。男に二言はありませんよ」

「ああ」



……許すしか、ないでしょ









躾けた

(帰りに外そうものなら途中でおろしますからね)

(……………………………………………ああ)






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