Novalis | ナノ


病んだ





…不愉快だ。

先日妙な女にあった。ソレと話していると私が私でなくなる感覚がする。
酸欠にも似ためまい、全身が心臓になったと錯覚するほどの動悸、風邪などが到底達し得ないほど身体中を蝕む熱、甘い痺れ…。
否、そんなことはありはしない、はずだ…。

私は私だ。

しかしどうも腑に落ちない。
うまく、言えないが…私という存在の概念をかき乱されるような…そんな…、



「やれ三成よ、先より何を珍妙な顔をしておる」
「……刑部…」
「ヒッ、愉快ぞ」



今日は大学の講義がない。刑部もだ。
だからこうして少しでも秀吉様のお力になろうと会社に来ている。以前半兵衛様から教えていただいた簡単な雑務ならこなせるようになったからそれをしているのだが…刑部のように手際よくは…あまり、出来ん…。



「……そんな格好をしている刑部に言われたくない」
「!なんと!三成がわれにワルグチを!!」



刑部は私の唯一無二の友だ。人は刑部を変わっていると避けるが、悪いやつではない。少し変…いや、個性的なだけだ。
現に今も肌のほとんどに包帯を巻いている。聞けば趣味だそうだ。己しか見れない己の肌のことを思うと興奮すると言っていた。私にはよくわからない感覚だが、刑部がそういうのならそうなのだろう。

以前試そうとしたら半兵衛様に止めるよう言われてしまった。

何にせよ時々こうして刑部には言われたくないと思うときもある。
傷つけてしまったか?と危惧するのもつかの間、刑部は何やら嬉しそうにしていたから放っておいても問題ないだろう。

………その刑部ならわかるかもしれん



「刑部」
「…ヒッ、……あい、いかがした」
「見ていると呼吸が苦しくなるような…胸が痛むような相手がいる」
「………なんと…」
「知り合ってまだ日は浅い上に共にする時間はそう多くないのだが…頭から離れん」



住まいを共にして毎日顔を会わせている刑部と違ってあの女は会う日もあればそうでない日もある。加えて進学ではなく就職の道を選んだあの女と大学内で鉢合わせる事もない。

……待て。
私は大学で焦れったい日々を過ごしているというのにあの女はすでに会社勤め…だ、と…。私だって、私だって今すぐにでも採用試験を突破して秀吉様と半兵衛様のお力になりたいというのにィ…!!!



「三成は病にかかっておる」
「なん、だと…」
「面白き事に医者にもわれにもどうにもできぬものと来た」
「………」



……まずい。私が病にかかっているとなればそれは非常にまずい!!!!
医者すら手が出ないということは不治の病か!?私ももう永くないということなのだろうかッ、秀吉様の何のお役にもたてていない内に死ぬということなのだろうかッ!!!!大学を捨て今すぐにでも就職試験を受けねば……Σはっ!お体の繊細な半兵衛様にこの病をうつしてしまうかもしれないッ、秀吉様になくてはならない存在である半兵衛様にそんな…っ、ならび私は近づいてはならないのかっ!お役に立てないどころか役を運んでしまうとは、そんな、そんなことはゆるされなぃいいイ!!!!

それもこれと全てあの女のせいだ!!!あの女と出会いさえしなければこんなふざけた病に悩まされることもなかったんだッ!!



「あの女、斬滅してやるッ!!!!!!!!」
「ヒッ、ィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒャッ、っはッゴホっげほ」
「刑部うううぅうううぅうぅぅ!!!!まさかお前に先にうつしてしまうとはッ、」



なんということだ!!!まだ自覚してから数時間しか刑部と空間を共にしていないというのに既にうつしてしまっているとはッ、そんなに感染力があったのか!だからあんなたまにしか、顔を合わせない女から私もうつされてしまっているよなッ!!!!!



「ヒヒ、っはぁ…そうよな、三成はそういう男であった…われとしたことが…ヒ、」
「そうだ!!!!医者にも刑部にも治せん病など最早呪いと同じだァア!!!ならばあの女の息の根を止めッ、呪いを解くしか方法はない…ッ!!!!」
「フッフォ、ヒヒャハッ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ…っ!!な、なにゆえぬしはそうも…ッゲホッケハ…ヒャ、」
「刑部ぅうううう!!!気をしっかり持て!!!今すぐ斬滅してくるから耐えろォオオ!!!」
「二人とも何を騒いでいるんだい」
「!!!!半兵衛様!!?!?!」



まずい、まずい…ッ!!!うつしてしまっては、半兵衛様は、半兵衛様に、秀吉さっ、ぁああ!!…ッ、わたしはどうすれば…ッ、一体どうすればッ



「なりません半兵衛様!!!私に近づいては…ッ、」



大きな音をたてて倒れた椅子に一々気を向けられない、
半兵衛様、あなた様にうつしてしまっては、刑部、刑部…ッ、お前にさせたくはないが、しかし、半兵衛様と距離、っ距離をとれ…!!

ああ、半兵衛様が訝しげなご様子で私を見ていらっしゃる…違う、違うのです半兵衛様、事情というものが…ッ、決してあなた様を避けているのではなく、いや、だがそういうことになる、のか…

ぁあ…泣いてしまいそうだ…、どうすればいい、わたしはどうすれば、一体…



「刑部…っ、」
「ヒヒヒィ、お、おちつき…ヤレ、みつ…ヒヒッ」


「いいから二人とも落ち着きたまえ。そして僕にわかるように事情を説明しておくれ」








「ふふ、なるほど。三成君らしい」
「三成は実に愉快な男であります故…ヒ、」
「…………」



何を優雅に茶を嗜んでいるぅううう!!!!
即刻ここから席をはずして半兵衛様に安全な環境を作って差し上げたいのだが大丈夫だから座っておくれとおっしゃるので私は…私はっ、恐れ多くも…ッ



「確かにお医者様にも僕たちにも、どうにもできない厄介な病気だね」
「……っ!!」



は、半兵衛様まで…っ、

笑いを堪えようとしているのか、不気味に不自然に息をこぼしている友。笑い事ではないのだ!!!!刑部!!!お前はコトの重大さを分かっていないイイィィイイイ!!!!ほら噎せた!!!!それが病がうつった証だと、なぜ分からぬのだああああぁあああああ!!!!!!



「やはりあの女を斬滅しt」
「それをしたらますます強まるよ。三成君の言う呪い」
「!!?!!?!???」



た、確かに術者を殺せば解かれるどころか恨みも重なって強まる類いの呪いもあると以前刑部から聞いたことがある。これはその類いのものなのだろうか…厄介な…、ならばどうれば…ッ



「それに、その女性に手をかけて三成君の言う呪いが解けたとしても、三成君が監獄に送り込まれてしまえば僕も吉継君も、もちろん、秀吉も悲しむよ」
「そればかりか太閤殿と賢人殿の名と顔に泥をつけることになりやるなァ…」
「!!」



…ッ、
考えても、わからない。私は本当に、どうすればいいのだ…?
目尻が熱い。そんな、弱き者がするようなこと、私はしない。認めてしまっては、秀吉様は弱き者を必要とされていない、私も、捨てられ…そんな、……しない。わたしは、



「どうすれば…」
「……そうだね。もうしばらく、一緒に居てみればいいんじゃないかな」
「!!!そ、そんな、さらに悪化してしまわないでしょうか」
「ふふ、そうだね」



半兵衛様も笑い事ではありません!!!!
…しかし、半兵衛様のおっしゃることに間違いはないはずだ…今までだって、そうだったのだ。確かに、斬滅して秀吉様方を困らせてしまうより、呪いを解く薬があるか、探した方が利口だ…
そうだ、あの女の家に隠してあるかもしれない。あふいは気が向いて呪いを解いてくれるかもしれないのだ。



「でも、何もしないよりは…気が楽になると思うんだ」
「……はい、半兵衛様のおっしゃるとおりです」



ああ…やはり半兵衛様は素晴らしいお方だ…
私がどうしようもできないと思っていたことをこうも簡単に解決の糸口を見つけてくださった…。


未だに"珍妙"な顔で虚を見つめる友を見る。
悪いやつではない、悪いやつではないのだ。ひとの不幸は蜜の味と、まさか私の不幸までも喜ぶとは思っていなかったが、悪いやつでは、ない。

これは刑部のためでもあるのだ。早く、解かねば、…そのためにも









病んだ

(今日から私はここに住む)
(え、えっ、え?)
(拒否は認めない)
(え、ちょ、え、ええぇー…)






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