花、永遠に
三成に押してもらいながらいすぐるまに乗る。主に見せたい場所があると、そう言って久々に外に出た。
雪は溶け、桜は既に散った。日はまだ肌を突き刺すような熱を帯びていなく、天もまだ泣いてはおらぬ。季節は晩春。向かう先は城からさほど遠くない野原よ。
「見よ、主色であろ」
「……なんという、花だ…」
一面は埋め尽くされたは何よりすみれ色になっておった。頭を垂れておる様が太閤や賢人殿を前にした三成そのものよ。
「堅香子といってなァ…現れてすぐ消える短命な生き物ゆえ"春の儚い夢"などと言う意味合いもあるそうよ」
「…私はそのように脆弱ではない」
ああ…となると賢人殿もそうなるのであろうか…。紫とはなんとも演技の悪い色よな…。嫌いになりそうよなァ…しかし、
「三成はよいよなァ…紫色とは、なんとも羨ましい限りよ」
あやつの瞳の色は、儚さを感じさせない紫紺であったと言うに…冬に咲くゆえ雪によって色が薄れたか…?
主がきちんと季節通り春に咲いておれば、その命消えずとも済んだやもしれぬのに…否、堅香子は一週間ほどの短き命の花であったゆえ…変わらぬか。
「何を言っている、刑部」
「あいすまなんだ、聞き流しやれ」
醜い嫉妬よ。われがか…?ほんに笑わせてくれる。
名前の葬儀は、小さく、静かに行われた。言葉にできぬ様子にあった賢人殿を戸惑ったように見ていた三成がまだ記憶に新しい。その時に賢人殿に妹君がおると知り、何故かわれが責められた。あやつは主ばかりを見ておったと言うに、主がその視線に気づかぬのが悪いのよ。
「お前の赤は紫の中に入っているだろう」
「……何を、言うておる」
「赤がなければ紫はできん。紫の一部である赤が何を羨むことがある」
…この男は、何を云うておるのか…。
斯様な考え方も、あったのか…。
そういえばあやつも、今の三成のように唐突にわれが考えもしない見方を述べることがあった。まるで、われの知らぬ部分を補うように、
「この花が好きなのか?」
「ッ、」
ドキリと、いつの日かのように核がひとつ大きく脈打った。何を、言いやる…ほんに、何を…
「よく見ろ。花の中心に近いところに紅が模様として引かれている。紫の中に溶け込んだ赤ではなくちゃんと"紅"もそこにある。よかったな」
摘んで帰ろう、後でお前の部屋に生けさせる。
そう言って屈んだ三成を尻目に胸にこみ上げてくる得体の知れない大きなそれを押さえつけるように胸元を握り締める。
われの、色が…。我は、少しは主にわれを刻むことができたということなのであろうか…、少しはそのココロを、占めることができたのであろうか…。
勝手に己が例えただけであって、ほんに名前がこの花だというわけでもないのに、われを占める激情を抑えることなどできず、三成がこちらに背を向いているのをいいことに、一人時期外れな梅雨を身に浴びた。
徒花(主の、特権ゆえなァ…)
(われの髪は、われの肌は、主を埋めた白と、われの紅の下に隠してやろ)