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黙々とサンドイッチを作ることに取り掛かっていればどうやら外に一度出たらしい奴が戻ってきたようで他の奴らはソイツからの話を真剣に聞いている。
ていうかいつまで居座る気なんだろう。とっとと帰ってくんないかな。
普段耳にしない騒々しいそれをBGMに、サンドイッチを作り終えると確か冷蔵庫にカフェオレがあったはずだと漁る。カフェオレをさらにミルクで3:2で割った奴が好きだ。カフェオレそのままだと私としてはちと濃い。イチゴオレも然り。
出来たそれを手に神妙な様子の彼らの横を通り抜けた先にあるテラスへと出る。ここの家主である友人がほしいからと付けてもらったものらしい。なぜ二階じゃないんだ。
屋上には天体観測ができるようになっているスペースまである、それも友人の趣……
…考えてみれば"なんの変哲もないただの家"ってのはいささか語弊があるように思える…いや、ちょっと広くて無駄に金かけられてるってだけで仕掛けがあったりなんたりじゃないからいいか。通る通る。てか通す。
テラスは日当たりがよく、テーブルセットがある。
天気のいい日は大概テーブルに足のせて読書に耽ったりしてる。ほどほどに太陽光浴びとかないとね。
椅子に浅く腰掛けて身を沈める様はよく同じ姿勢をしている友人に姿勢が悪いと注意されるが今思えば理不尽だ。
サンドイッチを手に取り口にする。
んまい。
料理はそんな得意じゃないけどサンドイッチは好きすぎてもう完璧。
ぐううぅう……ッ
耳にした音に、あー…ドラマとかアニメでよく耳にするなーと遠く思う。あれ実は膨らませた風船に指をすべらせてる音だとか聞いたことある。
音をたどった視線の先にはさっきの集団がいて、明らかに一人服と同じ色に頬を染めてるハチマキの青年がいて、あいつかと思いながら特に何をするでもなくまた一口サンドイッチをかじる。んまい。
エスパーなわけじゃないけど視線を感じることはできる。あるじゃん、あ、自分今見られてるってなる時。今それ。
それって結構居心地悪いわけで早くサンドイッチを食ってどっか見られないとこに行くかとカフェオレで押し込む。
洗おうとまた台所に行くためには彼らの横を通らなければいけないわけでその間も視線は外されることがなくイライラが少しずつ蓄積されていく。
何か言いたいことがあるなら言ってもらいたい。こっちはそんな気が長くないんだ。
しかし口にしない。面倒だし。
手早く片付けを済ませるとしょうがないから期限はまだまだ先だけどレポートでも終わらせるかと自分の部屋に戻ろうとしたとき"あ"と小さく声がした。
視線だけそちらにくれてやる。
「き、貴殿は…どちらに向かわれるのでござるか…」
声を発したのは先ほどのハチマキの青年。
「こちらの勝手でしょ」
「ちょっと、その言い方はないんじゃな〜い?」
高校もののストーリーでよく傷ついている女の子の横に控えている小生意気な女子が口にするようなセリフを口にするのは額縁に顔を突っ込んだような迷彩の青年。なんだこいつ、超めんどくさい。
そういう時はスルーが一番。
「ちょっ、無視!!?俺様の扱いひどくない!!?」
一度言葉を流されただけで素晴らしい吠えようだ。自分こいつ無理だな。しかし放っておけばもっと喚くのだろう、そう思うと自然とため息が出る。
「よぅ、アンタ…名前はなんていうんだ?」
「人に聞く前に自分から名乗る礼儀もないのか」
今度はスピーカーを弄ろうとした紫の眼帯。もう何なんだこいつらめんどくさいな、本当。ドアノブ手にした状態で振り返ってんのって結構だるいんだぞ。
びくっとかたを震わせるとすまねぇと謝る眼帯。やっぱこいつはビビリだ。多分。
「俺ァ長曾我部元親ってんだ」
「…………」
……………は?
「なんて?」
「だからよぉ、長曾我部元親っtt」
「は?」
「は?」
今なんて言ったよこの人。
「もっかいもっかい」
「長曾我部元親」
「………だめだ、もっかい」
「……あー…ちょ、長曾我部元親……」
居心地悪そうに視線を泳がせながら頭を掻き頬を染める眼帯。しかしこちらはそれどころじゃない。眉間にしわを寄せる。
「なんだ長曾我部、貴様そやつと知り合いか?」
「あ、今のもっかい」
「何をだ」
「なんだの後に言ったやつ」
「長曾我部のことか?」
「そそ、もっかい」
「何故我が何度も馬鹿の名を口にせねばならん」
帽子野郎は眉をしかめ、それ以降黙ってしまった。
しかし思えばこの部屋にいる連中はホントに個性的というか濃いというか…
だって素肌に革ジャンとか迷彩のポンチョとか半裸に眼帯とか馬鹿でかい帽子とか武器的前髪に刺に加えて浮くミイラだぜ…なんだこれ、笑える…。
しっかし聞き取れん、というより聞き取れるけど同じように自分の声帯と舌が動いてくれる気がしない…。
「よ、よぉ…なんだってそんなに俺の名前を…」
「もっかい、ちょっとゆっくりめに頼む」
「……ちょ、ちょうそ…かべ、も…とちか……」
「ちょ………」
………だめだ、一回目に空耳で聞こえた超スケベ元痴漢が頭から離れてくれないせいもあって全然名前わかんね。
これ以上顔を赤めた眼帯を羞恥で虐めるのも気が引ける。
「そうか、よろしく」
「え、呼んであげないの!!!?」
元気なポンチョは放置。あれなら無視されて寂しくて死ぬなんてことにはならないだろう。とりあえず名乗ってくれた眼帯にだけ名前を言っておくか…
「苗字名前。じゃ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
今度こそと扉を開けたのに驚く程素早く近づいた眼帯に腕を掴まれる。
「なんだ…」
声にイガイガがついている錯覚に陥る。それほどまでに不機嫌だ、今。いい加減にしてよ、ホント。
振り返り、睨みつける。
「ちょっと、話聞いてもらえねぇか…?」
…こうなることを避けて部屋に戻りたかったのに結局はこうなるのか…
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