紫 | ナノ
1-B2


「ヒヒ…驚く程の豹変ぶりよなァ…甲斐の若虎。我は目を疑っておる」

「…大谷殿…」





首にあった手を外され、早く答えろと推測するように顎を持ち上げられた時、もう一人同じく赤い人…人…?ミイラ…?がこの目の前の青年にそう話しかけた。途端、





「は、は……破廉恥でござらあああぁぁぁあああああああ!!!!!!!」

「う゛…ッ!!」





つんざくような大声。

う、るっさ!!なんつー声してんだ!!馬鹿でかいわ!!
反射的に耳を抑えるがまるで意味がない…今脳が揺れてる気がする…





「ヒッ、ヒヒヒヒヒヒャh…ゲホッゴホ…ッ」





…ミイラさんが…なんだろう、新しい笑い方で笑ってる…。初めて聞いたよあんな笑い方…むせてるし…。
まぁそれも個性か…否定するつもりはないよ、うん。いろんな意味で強烈だけど





「ヤレ主、名はなんと言う?」





笑いも収まった頃、冷たさを帯びた目でこちらを見て尋ねる。

さっきは青年の馬鹿でかい声のおかげで目にも止まらなかったがこのミイラさん…浮いてる。

いやキャラが、とかそういう話じゃなくて、文字通り浮いてる。なんだこいつやばい。
なんか四角いのに座ってる。でそれが浮いてる。磁石とかな…?でもこの家の床にそんなもん仕込んでないから無理でしょ、なんでや。


そんな不審者の代名詞ともいえるミイラさんに身元確認されたし…嘘でしょ?
でも最低限の礼儀くらい持ち合わせているつもりだからなぁ…





「苗字名前。この家に住んでます、大学生」

「ほう…氏を持っておるのか。ダイガクセイ、とな?…はて、そのような官位はあったか…」

「なんと!!氏をお持ちと!!これは失礼いたしましたっ、この幸村そうとは知らず数々のご無礼、お許しくだされぇえ!!!お館さばぁあああアアアア!!!!」





るっさい!!!


一人騒ぎ立て、もはや自分には謝罪をする気がないだろう青年を放ってミイラさんと向き合う。もうこの際浮いてるのとかなんでミイラなのかとか目の色逆だけどコンタクトなのかとかそんなんは一切気にしないでおこう。

こちらが名乗ったからにはそちらにも名乗ってもらわなければならない。


そもそもどうやって入ってきた…あといつから居たのさ…


黙って相手を見つめ、名を名乗るのを待っているとやれやれと肩をすくめられた。

え、なんで?





「大谷吉継という。あそこで喚いておるのは甲斐の若虎真田幸村よ」

「はぁ、」





…誰だ。いや、分かんなくて当然か。全日本人を把握してるわけじゃないんだから。虎?虎さんとミイラさん?





「して名前よ、ここは…どこであろうか。われはこのようなところに足を向けた記憶がないのだがなァ…」

「どこって…いやだからここ自分ん家…」





自分ん家ってちょっと違うか…居候か、自分…

未だ何かしら叫び続ける虎さんに対して"落ち着きやれ"とミイラさんが声をかけると"申し訳ござらぬ"と謝ってミイラさんの隣に綺麗な正座をしてみせた。





「名前殿と申されましたか、某達に何用ござりましょうか。何故このようなところに…」

「左様。われはぬしとは初対面。招かれるような関係でも、かようなことをされることをした覚えもない…」

「こっちだって呼んでないですよ……」





あなた方がここにいる理由は自分が一番知りたい…だって自分呼んでない…

目の前で二人が何やら話を始めた。のを傍観する。
ここに来た覚えはないだの、その前は確かにイクサバにてどうのこうの…





「しかし大谷殿…その、誠に失礼なことを言うようで申し訳ないのでござるが…」

「よい、言うてみよ」

「は。某、大谷軍の壊滅に伴って大谷殿は切腹なされたとの報告を受けておりましたが…ご無事でございましたか」

「否、われは確かにこの身を己が手にて彼岸へ手向けた」

「なんと…ならばここは……黄泉の国にございましょうか…」

「そうやも知れぬなァ…」





世を超えても主と会えるとは思わなんだ、と文字通り次元の違う話をしてる。
勝手に人ん家をあの世呼ばわりしてんじゃねぇぞ。本当になんなんですかあなた方…

そしてもういい加減にして欲しい…眠いんだ。
ベッドは目の前だ…この二人を超えたその後ろに鎮座している寝台に今自分は手招きされている。一度このふざけた状況で眠気が吹っ飛んだが眠気が復活してしまった。


寝よう…


立ち上がり、いざベッド。
途端に身構える目の前の赤。ていうか物取りなら早くなんか盗ってとっとと出てけ。邪魔っていうか鬱陶しい。構ってられるほど暇じゃない。自分には今寝るっていうやるべきことがあるんだ…





「何をしやる」

「寝る」

「われらを前にしてか?」

「構ってられん。盗るモン盗ってはよ出てってください。おやすみ」





某は物獲りではござらん!!!と叫ぶ青年に手を伸ばしたところにあったルービックキューブを投げつける。あっさりよけられたのが悔しい気もするけど黙ったからいい。



ばふん…



ああ…いつも柔らかく受け止めてくれるこいつが好きだ…


横になると今までとは比べ物にならない睡魔が身を襲う。
うん、休日は睡眠に限る…体力回復、精神安定、なによりもお金を使わずに済む…完璧じゃないか…

すやァ…





















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