苗字名前。
俺の婚約者の名前だって。
「う、うそ…だって俺、今まで一度もそんな話聞いたことない」
「お前に務まるとは思わなかったからな」
家がすごいお世話になっている家の長女で、記憶もない頃から決まってたらしい縁談。
でも突然変異で父上とも母上とも違う髪と目の色を見て、それを理由に婚約破棄されないように、結婚するまで俺が誰かに見られないようにしたらしい。
俺にそのことを言わず、名前にも言わず、誰にも言わず…。
ただ家の奥深くで大事に大事に育ててるとだけ言って…。
それに興味を持った名前が見たいと訪ねてきて断られて…
「無理矢理会おうとしたら殴られた」
「ええええ!!?」
「俺の息子を守り通せる力を持った奴じゃねぇと渡せねぇって」
「そ、それで…」
「問題ないって突っ込んでくるもんだからコテンパンにのしちまったぜ」
「えええええええぇぇええ!!?」
父上大人気ない!!
っていうかそんなストーリーが…ってことは…
「も、もしかして始めの頃の名前の怪我って…」
「そうだ」
「んん?どういうことだ」
「あの後部屋の窓から会いに行きましたよ」
「ンだって!!?!?」
名前が僕の婚約者で…、俺が出してもらえなかった理由は俺の持つ色で…、父上が名前をのして…
だめだ…一気にいろんなことを知った気がする…。外の世界なんかより目の前の事の方が理解しがたいっていうか…そんな感じがする…
で、でもそれってつまり…も、もしかして…
「国親さん、息子さんを私に下さい」
「……俺の息子を守り通せる力を持った奴じゃねぇ…」
「守る必要がないほどの平穏と幸福を誓います」
そ、それってもしかして、俺名前と離れ離れになんかならないってことだよね!!!
「名前!!!」
「っぐ……どうした姫」
やった!!やったね!!名前!!!!
思わずギュッと抱きついてしまった、嬉しい…すっごく嬉しい!!!
へらっと笑いかければふっといつものように静かに微笑んで俺を撫でてくれる。
「…ったくよォ…いつの間にそんな仲よくなったんだ…」
「百日以上は通いましたからね」
「狽「つの間に!!?」
ハハ、
笑いをこぼすと名前は俺を抱きしめ返して頬ずりをする。
あっ…どうしよ…
どう、しよ…胸が痛い、いつもの、あの胸の痛みが…
誤魔化すように、かき消すように強く抱きつけばちゅっと音がして髪をキスされたんだとしばらくしてから気づく。すぐに自分でも分かるくらい顔が真っ赤になった。
「おいおいオイ、何イチャついてんだ」
「息子さんを私に下さい」
「お前ぇ…いい性格してんな…」
そんなんされてちゃあ、断れねぇだろうが…。
ガシガシと乱暴に頭をかいた父上が携帯を取り出してどこかに電話をかけた。かけ終わると改まった様子でこちらを向いて、ちらっと名前を覗き見れば同じように真剣な顔で(俺を抱いたまま)父上と視線を交えてた。
「今夜、お前の父と母に来てもらうことになった」
「はい」
「正式に婚姻の話を進める。いいな」
「はい」
父上が席を立つ。なんだろ…こちらに来られるようだ。
と、わしゃわしゃと髪を撫でられた。微笑を浮かべて、今まで見た中で一番嬉しそうな表情で…
「よかったな」
それだけ言って、席をあとにされた…
「よかったな」
同じ言葉を名前が囁いて、よかった…よかったって、何度も、何度も…。
そ、っか…。
そっか…。
俺、これからもずっと、ずーっと…
名前と居られるんだ―――…
「よかったね」
深窓の姫
きっとこれから大変でしょう。
名前は世間知らずな彼に色々教えたり、成長した元親君が俺が守らねぇとって体鍛え始めたり…。書く事はあるかもしれないしないかもしれない(オイ