Usual


「Hi,My girl.」

「頭をなでないで!」

いつものようになでようとした手をパシンとはね除けられてしまった。物理的には痛くなかったが、スパークに何か刺さったような嫌な痺れが走る。

昨日まで俺を見つければ走ってよってきてはbugとkissをせがむ可愛いMy girlだったのに。

「俺、アナベルに嫌われるようなことやったか?」

「子供あつかいしないでほしいの!」

腕を組んで頬を膨らませてみせるアナベル。それが子供なんだって、という言葉は出すことはしない。そんなこと言っても分からないだろう。

あぁ、よかった。
嫌われたわけではなさそうだ。

屈んで視線を合わせようとしたら「立ったまんまでいいの!」と言われ、見下ろすわけになったが首が痛い。どうしたものか……
と、少し途方にくれそうになったところに父親のレノックスが登場した。

俺に恨み(恐らくはアナベルの愛情を俺が常に受けていることだろう)を込めた視線を寄越したかと思うと、アナベルを見せつけるように抱き上げた。

「おぉ〜アナベル!パパに会いにきてくれまちたか〜??」

「パパやめてキライおろして、このロリコン!!!」

「なっ…?!」

またまた何処で何時覚えてきたのか、多分本当の意味も知らずに罵倒として誤解をしているであろう言葉はレノックスには大ダメージだ。

言葉と手足をバタつかせることで抵抗して、おろしてもらったアナベルは腕組みと仁王立ちでふんぞり返ってみせる。

「もうパパにだっこされるお子ちゃまじゃないんだから!」

本気で嫌われた訳じゃないことは辛うじて把握できたレノックスは、なんとか笑みをつくって気の抜けた返事をするとヨロヨロと仕事場へ戻っていった。


「アナベル、なんで急にそんなこと気にし出したんだ?」

「サラちゃんがね、レディは甘えたりしないのよって言ってたの。」


いつかの爆弾発言を教えた友達か………
きっといつも彼女が情報源となっているのだろう。その子の親の顔が見てみたいものだ。


「じゃあ、サラちゃんは間違えてるなぁ………」

「どうして?」


ちょっとムッとした顔をしつつも、俺の話を聞こうとするのは、きっと。
きっと彼女がその友達よりも俺を信じてくれているということ。

無垢な瞳は俺の光を映して、青く潤っている。
ずっとずっと、アナベルの瞳は俺だけを映していればいい。

屈んで視線を合わせると、より瞳の映す青が濃く鮮やかになる。小さな手をとり、柔らかな髪を撫でる。


「本当のレディってのはな、甘えるのが上手なんだよ。自分を守るために、な。それに____」


俺は言葉を句切って、アナベルを抱き寄せた。俺の腕のなかじゃ、まだまだ小さな体は温かい。




「俺はありのままのアナベルが好きだ。無理に変わらなくていい。」




いつもの無邪気で明るい返事。

いつもの首に回る小さな腕の温もり。

いつもの頬におちる可愛い小さなキス。





今はまだ、それでいい。

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