きすみー


「ちゅうして?」

「OK,sweety」

抱き上げてほっぺに音をたててキスしてやると喜んでお返しのキスをしてくれる。

「ねぇねぇ。おくちにして?」

「えっ?」

「アナベル!それはダメだ!!!!」

俺がやましいことをしないか、こちらに気を張っていたレノックスがすかさず止めに来た。

「俺、そんなにガッツいていないぞ。レノックス」

「うるさい!」

「おーこわいこわい」

「パパこわーい」

少し不機嫌そうに俺に続くアナベル。
トゲをサッと隠して娘への笑顔をつくって腕を広げる父。

「パパはこわくないぞ〜。そうだアナベル。パパがキスしてあげよう」

「イヤ!パパとはしない!」

そう言って俺の首にしがみつくアナベル。

あぁ。可愛い可愛いmy girl……
ずっとそうやって俺の腕のなかにいてほしい。

「ママがね、ほんとうにすきな人とおくちでちゅうしなさいって」

「パパは?」

「パパはすきだけど、ちがうの」

子供とはおそろしい。
すでに家族愛と恋愛の違いを分かっている。

純粋な娘の言葉は、パパのハートにグサリと刺さったようで。レノックスは逃げるように仕事へと戻っていった。

何事もなかったかのようにアナベルは話を続けるのがなんだか残酷だと思う。



「あのね。アナベルはジャズがすき。だから、おくちにちゅうして?」

「っ………………」

くそっ。可愛い。反則だろう。
なんでこうも可愛いんだ!!!!


しないわけにはいかないだろ?
なんて言いたかったが、それはダメだ。


「いつか、本当に大好きで大切な人のためにとっておけ」

いいな?と小さな唇に人差し指をおいて念押しする。

「わかった」

納得はいかないようだが、うなずいた。
なにか決意したように両手を結んで。



なんだかスパークが苦しく感じるが、気のせいということにして知らないふりをする。



―――――――――――――そう、これでいい。いいんだ。

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