例えば満月は欠ける。雷蔵はそんな当たり前のことを忘れたことなどなかった。 日は沈むし、星は輝き、四季に合わせて草木は萌え枯れる。掬う水は指先からこぼれ、火に触れることは叶わない。重くない思い出などなく、変えられる過去もなく、定められた未来もない。 それらはすべて正しいことだった。雷蔵の知っている真実はどこまでも狂うことを知らず、穏やかに美しかった。 「うそつき」 雷蔵は静かに笑って花を添えた。 「なぁそろそろ起きてくれないと、僕もう泣きそうだよ」 積み上げた石の前で膝を抱えても、彼は2度と雷蔵の名前を呼ばない。 |