「あ、生きてたんだ」

柔らかな声が生死を確かめる。どうりで息苦しいはずだ。生きているんだから、当たり前だった。

「…死んで…ほし、かっ、…た?」

薄く目を開けた向こうに三郎がいた。月夜に塗り潰された影でよく見えないけど、この容赦ない物言いは三郎か立花先輩ぐらいなものだ。突き飛ばすような物言いなのに、ゆっくりと顔を近づけて来たのが少しだけ愛おしいと思った。

「いいや。まさか」
「、なら、ちょっ、…ぐらい、喜、ん…でよ…」
「はいはい。うれしいうれしい」

気のないあしらいに、ひどいや、と少し苦しそうに笑うと、肩をゆっくり抱え起こされた。激痛が走り抜ける。腹に穴が空いているのになんて無茶をしてくれるんだろう、こいつ。
思わず殴ってやりたいのに、でも溶けるような安堵の匂いが体力のすべてを削いだ。
反射的に袖を掴むと、抱きしめるかのように身体が寄り添ってくれる。まるで身を冷やす秋風から庇うように、月光に照らされないように。

「いた、っ…たい、ちょ、死んじゃう…」
「なら死ねばいい」
「お前、ほ…んっと、怒る、よ…」
「死ねるものなら死んでみろ、雷蔵」

そのままぐん、と肩に抱え上げられて、お陰で三郎の顔は見えなくなった。痛みに堪えられなくて、痛い痛いと背中に爪を立ててやると、小刻みに震えている。
ああ、そうか。

「……もう、僕が、いないと…、お前は…だめ、だ、なぁ…」
「ほら、な」
「ふふ、」


お前を置いて、死ねるわけがなかった。







091010メメント・モリ
Can you go without me?
(私を一人残せますか)


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