「私はきっと君といるから寂しいのだろうね」

だからといって三郎が雷蔵から離れることはなかった。距離のないふたりの距離を繋いでいるのは模倣された外見だけで、それもこの朝霧の中ではぼんやりと霞んでいた。繋いだ手を静かに強く握って、雷蔵は三郎を目に閉じ込めようとに瞬きをやめる。

「それは僕だって同じさ三郎」
「同じじゃない」
「どうして」
「だって雷蔵。君は私ではないんだ」

そう言って三郎は雷蔵の顔で微笑んだ。髪の一筋から爪の長さ、関節の具合から胃の消化速度まで三郎は雷蔵だったが、声だけは鉢屋三郎のまま、雷蔵の名を呼んだ。



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