泣くなよ、と笑う三郎は風に仮初めの髪を揺らしながら突風の遥か先を見つめている。穏やかな微笑みは清涼で、これから三郎を襲う痛みでさえ、その峻烈なまでの覚悟に思わず戸惑ってしまうに違いない。彼はそもそもが万物に与えられた物の形を凌駕していたのだ。いまさら、神様仏様に裏切られたところでなんの関係もないのだろう。

「泣かないよ」
「どうかな」
「泣かないって」
「本当かい」
「うん」
「はは、私は信じないよ」

最後の微笑を落として三郎は解いた。
鼻先はすらりと天を仰いで、両翼のように広げた腕はしなやか。夜に溶ける糸。未来に据えた背筋には非の打ち所がない。

「後で嘘つきって言ってあげるから」

細い指先が大きく振られると、幾本もの苦無を器用に受け止めている。既に射程距離の追っ手は数十人いた。無茶だ。無茶なのに、三郎の言葉は作ったみたいに本物だ。

「だから先に帰って待っててくれ」









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