正義を語るの何が悪い。理想を愛すの何が悪い。夢を語ることを非難されるのならばこの世の美徳とはなんたるか。
突き付けられた銃口には善悪を見いだせない。兄はうつけが、と言う。ならば貴様はなんなのだ。

「市がよく、貴様のことで泣いた」
「愚妹の名など聞くに値せぬ」
「我が妻の名だ。侮辱は許さぬ」

引き金の動きを見切れば兜がちゅん、と弾をはじいた。
炎上する城に未練はない。最愛の妻子は無事に城下を下り、私はもう、この世の使命を終えたに違いない。続いていくこの乱世に一矢報いるとするならば、私はやはり義のために死のう。翳した剣はとても重い。振り切れるだろうか。

「私が憎いか、兄者。私を認めれば、貴様は悪となるのだからな」

正義など、私には眩しくて見えなかった。
理想など、私には遠くて掴めなかった。
悪が滅べばそれでいい。それで正義が見えるなら。






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