かつて、抱いて進んでいた頃もあった。その頃は右目どころか、手となり足となったものだった。それがいつからか、自分の足で歩くようになって次第に此の手を引くようになって、今ではそんな幼少の面影もなく、ただ道なき道を真っ直ぐ切り裂いて突き進んでいく。自ら血を被り、自ら血を流し。荒れ狂う時勢に牙を剥き爪を立て、その御前に捧げられた命は、もう数を知れない。戻ることなどできない道が、暗闇の先に続いている。数多の屍が作り上げる不安定な道を、それでもその人が望むものがその先にしかないのだから、言い訳はさておき自分はただその跡を辿る。竜の吹き抜けた軌跡を。
世迷い言など聞きたくはない。振り向いた瞳など見たくない。天下はまだか、と聞かれる度にふと、飯はまだか、と稚児の声が重なり、きりきりと心臓を締め付けた。

「まるで飯をねだる幼子のようですな」
「Ha!子供ってか」
「もう他力本願のお年ではないでしょう。寝覚めの枕元では、もうないのです」
「へいへい」

いつかの約束を覚えているだろうか。遠い未来に両目で晴れ渡る泰平を望もうと。ただ今よりも一つだけ多くの微笑みを創ろうと。だからこそ刻むようにして誓った優しさを今は鬼のような形相の中に潜ませる。そして自分はその後ろを片時も疑わないと、消え行く情景に結んだあの日さえ捨ててひたむきになぞる。





前にしか伸びぬ道を









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