我が妻である市は、瞬きをする度に涙を流すような弱者であり、私が守ってやらねばすぐにでも散ってしまいそうな花であった。彼岸花のように侘びしく咲き、梔のように醜くくさり、山茶花のようにはらはらと泣き、椿のように首から落ちる。
市は、眠ってはよく魘され、たまに夜も深い丑三つ時に隣で寝ている私を起こす。機嫌の悪い私に向かって謝罪をくりかえしながら縋るようにして泣きじゃくるので、仕方がなく布団の中に入れてやる。そしてただ泣くな泣くなとくりかえしながら、今にもころりと取れてしまいそうな小さな頭を繋ぎ止めるように掻き抱いてやる。すると市はそのまま一晩泣き明かし、鳥達が朝を告げ始める頃にやっと眠るのだった。
それを見届けると、私はそっと布団から抜け出す。絡みつく髪を引いてしまわないように、指先で漆黒の束をまっすぐにしてから、朝焼けに立ち上がるのだ。





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