「なぁ元就…腹減った」 「そうか、餓死せよ」 冷蔵庫を開けて絶望していた。からっぽだ。かろうじでバターとカレー粉が置いてある。なんで冷蔵庫にカレー粉が収まっているのかはわからないが、とりあえず食べれそうなものは、ない。作るにしても材料がない。バターカレーなんて、水道水飲んでた方がマシだ。 「空ってなんだよこれ、空って」 「よく見よマーガリンとシチューがあるはずだ」 「お前がよく見ろ」 つーかお前腹減らねェの、と諦めて冷蔵庫を閉めると、ソファにまるまって本を読む元就が、手だけで手招きをする。こっち来いってか。空腹とは無縁そうな細い体を見下ろす。無頓着な肌色だ。いつか栄養失調で死ぬだろう。と、今度は床を指差す。屈めってか。 はいはいなんですか。と、膝立ちになってやると、急に腕がネクタイを引っ張ってきた。きれいな視線は本のまま。 「元親」 「なん、だよ」 「どうだ、食うか」 「…へぇ、」 俺はもう空腹過ぎて死にそうだ。絶望的な冷蔵庫。バターカレーなんか食いたくない。元就の本を取り上げて、唇を舐めた。 |