佐助の指差す先には少女がいる。 「あれが」 「そ。あの首取ったら終わるよ」 「そうか」 「周り、片しとく?」 武器とも呼べない道具を翳す一揆衆に佐助は笑った。幸村の前に立ちはだかる数百の農民は、気を保つのに必死だった。足が震えているのは恐らく寒いからではない。 幸村は器用に赤い鉢巻きを結んで、なぁ佐助、と影にふと声をかける。指示のあるまで絶対的に従順な忍は前に出ない。主の言葉の続きを待つ。 「農民と武士の違いはなんだ」 「…え、なに」 「俺にはどれも同じ首にしか見えぬ。お館様の御上洛を阻む、首」 言った刹那。ずあ、と雪を巻き上げて幸村は二槍を振るい、駆けていた。一直線に貫かれる。跳ね飛ぶ首が世界に赤い染みを作った。少女に至るまであと10秒と持たないだろうことを知りながら、佐助は冷たい目で主の後に続く。 「そうだね。人なんだよ、その子も大将も旦那も俺様も」 独眼竜ならば躊躇うのだろうと、佐助は飛んでいく首を眺めた。 |