三郎が雪の中、突っ立っていた。僕はとてもびっくりして(だって三郎はとても寒がりだから。よく寝られないと言って僕の布団に冷たい足を突っ込んできた)、三郎!と声を張り上げてしまった。真っ白な空に響いた声に、三郎は少しだけ顔を上げてみせた。 まっすぐ向き合っている僕たちは、互いに真っ黒な忍装束一枚に身を包んでいた。 「どうして羽織を着ないんだ」 「着られないのさ」 「どうして」 「ふふ、分からないか?」 らいぞう。と僕の名を、あの頃と何一つ変わらない温度で口にする。ふわりと吐き出された白い息はきっと甘いに違いない。三郎はほんのり優しく笑っていた。 「君が着ていないからさ。雷蔵」 同じ仕草で苦無を構える。 「女々しいな」 「女々しいだろ」 「でもごめん。うれしいよ」 ねえ三郎、このまま駆け落ちしちゃおうよ。三途の川でも地獄の果てでもどこでもいいよ。僕にとっては君の隣が楽園だから。 「おいで三郎。僕の体温であっためてあげるから」 僕は甘いのが好きだよ、三郎。 |