蝕まれた血を見ることは叶わないのであろう。
あの御方が傷付くことなど、そのようなこと、あってはならずしてさせやせぬ。そして彼女がいま塗れているのも誰か、名も知れぬ命の温もりだった。
息を切らし生温い己の体液を流す自分が馬鹿らしくなる。死者のみが平伏すこの戦場に探し当てた彼女は双刀を抱いて座り込んでいた。辺りに飛んだ首の夥しいこと。彼女は陶器のように無傷で艶やかな脚を地に折って、重い瞬きで宙を探す。

「…望んで殺すわけじゃないのに、こんなにも簡単に命は摘まれるのね」

呟くは紛れも無く、己に向けられたものである。ぞくりと背に走る戦慄は死と絶望を携えていた。もはや彼女が望めばあの御方さえ、他愛もなく首を削がれ、そのしゃれこうべをもって杯となろう。魔の血とは、喰らいつくすが定めであった。災厄しかもたらさぬ血が呼ぶのは永遠の慟哭か。彼女は笑う。胸の軋みを嘲笑う。
腕に重い引き金を引けば彼女を殺せたが、殺す意識を既に殺されている。座り込む彼女の傍にしゃがんで、髪を撫でた。救いなど、彼女も求めていない。与える術も私は知らない。共に堕ちる術さえも。

「いい子ね。さあ帰りましょう」
「ふふ…どこへ帰るの、濃姫様」

縋る瞳。見開かれた殺意に捉えられた。







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