濡れ縁に腰かけて5人で同じ庭を見ながら、その知らせを勘右衛門の口から受けた。
あの人は泣いたら許さないからなあ、と笑いながら八左ヱ門が空を見上げる。そう、理不尽な人だった。誰の嘆きも受け入れない姿勢に何度泣かされたことか。お願いですからと。後生ですからと。みんなが泣きますからと。誰も望みませんからと。それに、知ったことか、と笑う姿は無駄の一切がなくて鬼にも近いくらい美しかった。
なんとなくいつもより澄んで見える空は、そうして視界を覆ってくれる仮初が1枚なくなったからだろうか。八左ヱ門の横顔から目を逸らす。逸らさないといけない。同じ方を向いて、露草色の空に響いた声は天を越えていきそうだった。望まれたはなむけだったのだろうか。一瞬、風が凪ぐ。

「幸か不幸かをぼくたちが決めるべきじゃないんだろうけど」
「まあな。でも、『幸せだった』と言われたいだろうよ、あの人は」
「あれで鉢屋以上の心配性であまのじゃくだったもんなー」
「勘右衛門、もう一回言ってみろ」
「あはは、いい加減かわいい照れ隠しの仕方覚えたら?」
「はいはいあとがめんどくさいからじゃれるなよ勘右衛門」

苦笑する雷蔵に肩を掴まれて鉢屋は仕方なく濡れ縁の後ろに手をついた。煽り合う声も、諌める声も、常温よりぬるいのは5人とも承知している。ただ空に嘘がつければそれでいいのだ。

「おれたちの中で誰が最初に死ぬんだろうな」
「鉢屋希望」
「尾浜希望」
「だからやめろってばお前ら」

なんとなく発した言葉でまた仲の良さが摩擦を起こす。

「おれ最初に死にたい」
「兵助ー卒業試験の総合得点が鉢屋に負けたからって死に急ぐなよ」
「すまん、わたしの5点やるから」
「おれ、点数はやれないけど豆腐やるからがんばれよ兵助!!」
「そうだ、世界中の豆腐が兵助に食べられるのを待ってるんだから!」
「落ちつけよお前ら…豆腐なら全部食ってから死ぬし」

真面目くさって言ってやったら、みんなに笑われた。どうかあの人のたおやかな視線のように晴れ渡ったこの空の向こうに、怖い夢がありませんように。一過性の悲しみがぼやけていく。








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