注文したそれらを早口で繰り返されて、特に聞いてもいなかったけど、以上でよろしいでしょうか?と同意を求められて、はい、と返す。マニュアルをなぞる店員はそのままメニューを持って下がっていた。
結構かわいい、とそれに対してぽつりと溢したのは紛れもなく目の前に座っている三郎で、三郎がそんなことをいうなんて、おれは若干失望に近い気持ちで眺めた。

「あの制服」
「ああ制服か」
「なに」
「別に」

カチ、カチとライターを鳴らして、でも全席禁煙のファミレスではその行為に意味はない。さっきのキスと同じで、何ももたらさない。確かロボットがいくら人間に近い存在になっていったとしても、無駄なことができない限りは人間になれないって誰かが言ってた。そんなわけでおれと三郎はとても人間だった。

「三郎はおれとキスして楽しい?」
「いや別に」
「だよな。おれも」
「たぶんそれでいいんだよ、わたしたちは」
「なんで」
「ん?」
「なんでその先に行けないんだろう」

挑むように三郎をじっと真っ正面に見据える。その先に行くのをお互いに求めていない訳じゃない。互いが互いのことをどれだけ好いているかぐらい、何がほしいかぐらい、わかり合っている、つもりだ。
三郎は笑みを深めて、兵助は馬鹿だな、と言う。そんな言葉ではぐらかされたくないので、おれは何も言わずに三郎をじっと見つめる作業を続行する。せわしなくカチカチ、と鳴らしていたライターが、一瞬、止まる。

「わたしは、わたしの中にこれ以上兵助がいたらしんどいけど」

兵助は?と顔をのぞき込まれて、頭が熱くなった。
うん、三郎、あのさ、おれは。





君の入る余地について









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