三郎にもあげるはずのお手製の冷奴は雷蔵が食べてしまった。正しく言うと間違って雷蔵にあげてしまった。お醤油を垂らしてうまいうまいと食べきったあとで、以上すべて不破雷蔵でした、と手を合わせて笑う雷蔵、にも、さっき同じくお手製の冷奴をあげた。あげたところだったのだ。
三郎にも味をみてほしいから、と三郎へ俺の部屋に来てもらうよう言付けを頼めばこれだ。せっかくおいしくできた豆腐だったのに。
お前が三郎の振りなんかするから、と突っ掛かれば、間違える方が悪い、とあしらわれてカチンとくる。そんなもの、騙す方が悪いに決まっている。人の好意を利用して得をしようなんて、そんな曲がった根性、俺は断じて許さない。断じて。


「別に得しようなんで思っちゃいないよ。お前じゃあるまいし豆腐なんて1日1膳で充分だ」

「は?だったらなんで」

「そりゃ…豆腐があんまりおいしかったから」

「ほらみろ、結局ただ冷奴が食べたかっただけなんだろ」

「違うって」


雷蔵は肩を竦めて曖昧に笑う。それから、悪かったよ、三郎には僕から謝っておくから、とすんなり立ち上がって部屋から出ていった。
なんだ、あいつ。


「なぁ兵助、嫉妬って知ってるか」

「知らん。知りたくもない」


雷蔵と入れ替わりに風呂から帰ってきた勘右衛門のように、俺は聡くも器用でもないのだ。部屋の空気を感じて部屋の前で足を止めるなんてしない。ズルをした奴を許したりしない。
不貞腐れて畳に寝転がる。
雷蔵がズルをするくらいとてもおいしくできた豆腐だったので、きっと三郎も喜んでくれたに違いなかったのだ。









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