久しぶりにみんなで鍛錬に励みまくったのはいいけど、まだ、この川の向こうに兵助がいた。
昨日の雨で川はごうごうと大きな音を立てて兵助の声は聞こえない。口の動きしかわからないけれど、『豆腐定食先に取っといてくれ』であることは間違いない。あいつの口はそれぐらいしか言わないから読みとるのは容易い。
兵助の訴えに即、了と返して、勘右衛門はあっさりと地を蹴った。三郎と一緒にいようかどうしようか悩んで、でも勘右衛門に、はっちゃん行くよ!と呼ばれて、少し遅れて付いていく。
いいのかよ?と声をかけると、おれはろ組じゃないからね、と返された。


「それにもうすぐ彦星の見せ場だから」

「は?」

「大丈夫大丈夫、おれたちの仕事は豆腐定食を5つ確保することだよはっちゃん。っていうか今日豆腐定食とかあったかどうかわかんないけどさー」

「え、彦星って」

「もー七夕伝説知らないわけ?織姫と彦星ってくっついたらだめになるから普段は離れ離れにされてて、7月7日だけいつもがんばってるご褒美に会わせてもらえるっていうあれ」

「いやだから彦星って」

「よっ、と、ただいまー」

「なあ勘、」

「あ、おーい雷蔵ー!先に帰ったと思ったらなんだよもう風呂まで入ったのか?気を使うにしても早すぎだろー」

「ごめんごめん、三郎がはりきってたから早々に放ってきちゃった」


長屋の庭に戻るとすでにほかほかの雷蔵がいて、てへ、と星を飛ばして笑う。
終始疑問符を飛ばしている俺にはお構いなしに、2人は楽しそうにあれはああだのこれはこうだったからいまごろこれこれでとか、なんかもう、いいけどさ。


「あーあ、三郎と兵助、いつ帰ってくるんだろうな」

「あー食堂閉まるまでには帰ってくるだろ」

「うん、かわいそうだけどそうだろうね」


前を歩く2人が意味ありげに笑う。俺だってあの2人がくっついてるのくらい知ってるっつーの。


「だからどっちが彦星かって話」









- ナノ -