「本当は夢なんてなくたって笑えるし、考えてみたら今だって幸せなんだけど、どうしたってきらきらしたものを未来の中に探して、それで勝手に落ち込むんだろうな」


背伸びをして手に入れたものは抱きしめにくい。温かさもうまく伝えられない。
兵助は胸の奥にしまいこんだ涙をいまさら口に出してみる。雷蔵の優しさはその水分さえ大切にしてくれる。さすが。あの、極端な人見知りを治しただけはある。雷蔵はどんな言葉もどんな感情もこぼさずに、皺くちゃにせずに、上手に受け取る。どんなに忘れてほしいと願っても、雷蔵はそれさえさらりと書き落とす。そういう性分だから仕方ないのだと笑っていたのは、名前の通り竹のような髪の、性格の、生き様の同輩だった。まるで家族よりも近い存在としてお互いを慈しむろ組を羨ましいと思わないほど兵助は不貞腐れているわけではないし、馴染んでいないわけではなかった。
兵助は七色の色紙がふわふわと湿気た風に流されるのを指先で遊んでみる。飾る言葉は何もいらない。どんな人も、その少し細長い紙にそっと、祈るだけだった。叶うことも、叶わないことも、誰に約束するわけでもなく、誰に誓うでもなく綴る。


「なんか、三郎を殴りたい」

「うん、僕も」


この気持ちに名前をつけるならたぶんわがままになるんだろう。
兵助の指の先では、誰に似せたのか、無駄に達筆な文字が、誰よりも先に死にたい、と傲慢な幸せを訴えている。





わがままを笑って
受け入れるあなた








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