「ちっはずれか」

「おれあたりー!イェーイ!」

「久々知は?」

「え、あ、どこ見たらいいんだ?」

「ふたの裏」


貸してみ、と鉢屋が久々知のゼリーを取り上げてあっさりふたをめくる。安っぽいソーダ味のゼリーから甘い汁がこぼれて鉢屋の腕を伝った。久々知にはそういうのが理解できなくて、いまだにこの都会とは違う空気に馴染めなかった。
べたべたになるようなお菓子をなぜ好むのか。なんでポケットにティッシュが入っていないのか。こぼれるのがわかっているならもうちょっと優しく、すればいいのに。


「あ、久々知もあたりだ」

「あははは、じゃあチューペット鉢屋のおごりなー」

「はずれたのになんで奢らされんだよ!」

「鉢屋だからー!」

「いじめダメ、ゼッタイ!」


噛み付く鉢屋を横目に、おばちゃあん!あたったー!と尾浜は心底楽しそうにまた、少し薄暗い木製の駄菓子屋に入っていった。そんな単なる冗談の掛け合いが、ずっと都会にいた久々知には少し恥ずかしくて、眩しかった。ここにある有り余る無駄が、久々知には新しくて難しくて羨ましかった。

はい、と鉢屋がゼリーを差し出す。べたべたしなさそうなところを無意識に選んで久々知は小さくありがとうと言う。
そんな久々知を横目に鉢屋は、べろり、と腕の内側をなぞる。もったいない精神なのか、なら、なんで開けるときにそれなりの配慮をしないのか。洗練された思考の中で迷子になっていく久々知は眉間にしわを寄せる。
その表情があまり好きではなくて、鉢屋はなんとなく少しだけ笑った。悩みにはただ意味を含まない笑顔が1番いい。迷い癖のある従兄弟がよく微笑むのを思い出して、鉢屋はできるだけそれを真似て笑う。


「お前ってほんと難しいことばっか考えて、馬っ鹿じゃないの。あたったらあんな感じで喜んだらいいし、思ってることは全部言ったらいいのに」


指先を舐めて、そうやって馬鹿にしてくる鉢屋の方が、誰がどう見たって全国模試でトップクラスの久々知より馬鹿に違いない。
久々知はそう思うとむっとした。でもその反感の先をどうしても鉢屋に向けられなくて、なぜなら鉢屋の言ったことが胸にざっくり刺さっていて、ここでそっぽを向いてしまうのは久々知の育ってきた都会曰く、図星の逆ギレになるわけで、そんなスマートじゃないことはあまりに田舎くさくて芋くさくて土くさくて。
久々知は一口で弾力のないゼリーを口に含んだ。


「お前ももう少し笑ったら、たぶんかわいいよ」

「だから、そのかわいさが、この世になにをもたらすんだよ」


ついに口に出した久々知に、鉢屋はにやりと笑って、そうそう、とわざわざ白い頬をつついた。





きっと飛べなくなっていく