「なんでこのドア自動じゃないわけ」


かんからん、と煤けた鈍い音とともにドアが開いた。顔を上げれば視覚的には誰もいない。高度な光学迷彩に、おかえり、と返せば、真っ黒な右腕を左腕で持つ三郎が滲むように現われた。口パクのような、ただいま。きっとドアは足で開けたんだろう。行儀が悪い。
増して仏頂面の三郎は目が合うと、ん、と無機物の腕を突き出してきた。読みかけの本をひっくり返してカウンターから立ち上がる。生憎この時代遅れのアナログカフェは、今日も開店休業状態だ。めでたく一人目の客を迎える。


「くれるの?」

「ちげぇよ察しろ」

「うそうそ、また何してきたの」

「筋肉馬鹿と喧嘩してきた」

「小平太?元気そうだった?」

「アンタのお陰で御覧のとおり」


ぽーんと軽く放られた腕を両手で受け取る。ついこの前付け替えた腕はもはや、原形を留めるだけでガチャンと壊れた音を立てる。よかった。小平太はまだ手加減できる程度には元気らしい。











見てのとおり挫折です。




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