満月が近い。
甘い色で満たされた金色が七松の目に落ちる。ぱちぱち、と瞬きをするたびにちかちかと、らんらんと、全力投球しか知らない丸い瞳は全方位を捉える。


「あーあ、警戒されちゃってる」


七松の隣で鉢屋は眼下の陣営にため息を吐く。暗にこの面倒な状況は七松のせいであると訴える。が、当の本人は任務になんの興味もないようで、実際なくて(でなければ作戦を無視して、いきなり陣営を半壊させるはずがない)、任務に相応しくない天体にずっと目を向けていた。
七松と任務を任されることになったとき、鉢屋は直感のままそれを告げた木下に噛み付いた。本当は久々知が行くことになっていたその任務は、事前に久々知から代わってくれと食券5枚で承諾した話で(町の豆腐屋で朝から会合があるんだとかなんとか)、鉢屋は馬鹿にしながらも友人からの懇願に安請け合いした自分を恨んだ。


「ちょっ七松先輩となんて聞いてませんよっ!」

「わしもさっき聞いたところでいま言ったところだ。つべこべ言わず七松と打ち合わせしてこい」

「兵助のクソ豆腐…」

「んん?」

「いえ…わかりました…」


長い睫毛を伏せて部屋から出た鉢屋は、いまごろほくほく顔の久々知を思い浮べた。5年にもなれば、殺意の消し方ぐらいは心得ている。
七松と組む、ということがどれほどの惨事か、忍術学園に籍を置くものならば想像に易い。


「ったく…情報収集と攪乱なんて繊細な仕事に、なんでったってあなたが選ばれたんですかね」

「ん?もともとは伊作だったんだけどな、私が代わってもらったんだ」

「あんたが立候補したのかよ!」

「おお、鉢屋とだって、久々知から聞いて」


何のためらいもなくうれしそうに笑う七松に、それはありがとうございます、と鉢屋はどぎまぎしながら微笑んだ。七松に好かれるなんて今世紀最大の失態だ、と思うことでなんとか平静を保つ。


「うん、月が、きれいだなぁ」

(だから、いやなんだ)


とりあえず豆腐小僧は帰ったら麻婆豆腐にしてやることにして、はいはい、とっとと行きましょうか、と鉢屋は不破の皮膚の下で火照った頬をぱんぱんと叩いた。





豆腐小僧の行方







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