ご飯は?と聞いた僕に、あぁ食べてきた、と言って三郎はお腹を鳴らした。ネクタイを外しかけた三郎とご飯に箸を差し込んだ僕はそのまま静止して見つめ合う。お互いの思考はわかりやすい。僕達は半身みたいなものだから。
内心、うわぁなにこいつかわいいそして馬鹿っていうかギャグなのかなこれ、と思いつつにこっとする。三郎もぎこちなくにこっとして、恐る恐るネクタイを外した。


「三郎は難しいこと考えてるけどわかりやすいよね」

「誉め言葉として受け取っておきます」

「歯」

「っ、」

「見せな。こっち来て」


かたん、と箸を置いた音に三郎は肩を跳ねてそっぽを向いた。ツンデレとか余裕で射程圏内ですけど。


「三郎」

「いっいやだ…」

「ちゅうしてあげる」

「そっその手に乗るかぁあああ!!」

「じゃあ一生してあげない」

「すいませんでしたぁあああ!!」


案外簡単に折れた三郎は膝立ちして椅子に座る僕を見上げる。第一ボタンの開いたシャツは反則だ。じゃなくて。
頬に手を添えると、三郎は若干涙目になる。少し上を向かせて、口開けて、と促すと、三郎はゆっくりと僕に無防備な咥内を曝した。従順な三郎ほどいじめ倒したくなる対象もいない。この歯列を舌でなぞったら、どんな反応をするだろう、とか。
口の中をじっと覗き込む僕に、三郎はだんだん焦れてきて、どう?というような声を上げた。どうもこうも、左奥にちょっとひどいのがある。


「これ、痛い?」

「ひっ」


親指を突っ込んで、黒いところをぐいっと押す。僕は虫歯になったことがないので、みんなが痛い痛いという虫歯がどんな痛みなのか、正直よくわからない。興味本位で押した僕は後悔した。
三郎はよほど痛かったのか、猫のしっぽを踏んだみたいな変な声とともに、顔を背けて床に崩れてしまった。


「あ、ごめん」

「っばか!雷蔵のっばかぁああ!」


頬を押さえて涙目で睨んでくる三郎に、明日歯医者さんにいくことと、いまから虫歯プレイを仕掛けることで僕の頭はいっぱいいっぱいになった。





キスは歯医者に行ってから







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