ベランダに出ると春めいてきた空気はなんとなく花の匂いがする。何の花かは知らないけど、匂いに敏感な八左ヱ門に聞いたら、きっときょとんとした顔で、ああこれあれだろ、と教えてくれるにちがいない。え、なんでお前わかんないの、って感じのニュアンスで。
煙草に火をつけると空を仰いだ。若干ピンクに見える。気のせいか。


「雷蔵、また煙草やってんの」

「あ、ごめん、」

「ばか。三郎に怒られんのおれなんだからな」

「えーそうなの?」


何せ怒られたことがないのでわからない。そういえば三郎も匂いには敏感だ。煙草なんてすぐバレるし、昼飯の内容も女の子と一緒にいたことさえ匂いで見抜く。僕限定で。お昼女の子と食堂で牛丼だったなら晩ご飯はサラダ多めがいいだろ、なんて笑顔でさらりと言ってくる。そんなことも僕はもう慣れたもんで、パスタならクリームソースで、と返す。


「で、荷造り終わった?」

「うん、もう詰めるのめんどくさくなったからほとんど捨てることにした」

「うっわ、さすが大雑把王子」

「人のこと言えないくせに」

「いやいやおれは兵助のお陰でだいぶマシになったって。それに比べて」

「僕は三郎のせいで前よりひどくなったよね」

「あはは、自覚してんのって質悪いよなー」


手入れの行き届いたカラフルな爪に容赦なく煙草を取り上げられる。代わりに口にはチョコレート。僕甘いものあんまり好きじゃないのに。勘右衛門は僕の代わりに害しかない煙を肺いっぱいに吸って、溜め息のような笑みをこぼしながら部屋を指差す。


「三郎は、甘党だろ」









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