「三郎なら雷蔵を探しにいってるぜ。雷蔵ももう5年なんだし、放っときゃいいのにきっとまたお使いの帰りに何かで迷ってるんだってきかなくてさ。もちろん俺はどこかなんて知らねーよ。三郎は大体わかるんだろうけど」


虫籠の穴を直しながら八左ヱ門は笑った。おれが、鉢屋は?って言い切るより早く、すらすら答えた。俺はたぶんすごくいやそうな顔をしたと思う。八左ヱ門がこっちを見てなかったことが救いだ。
うん、ありがとう、と言って部屋から出ていく。少しだけ泣きたくなった。
鉢屋は雷蔵だから迎えに行った。おれがお使いの帰りが遅くなったところで鉢屋が探しに来てくれるはずはないし、そもそも気付いてくれるかどうかもわからない。


「それって僕に嫉妬してるの」


そう言って薄く笑う雷蔵が簡単に頭に浮かぶ。
2人が帰ってきても、お帰りってふつうに笑えるように、俺は部屋に戻って手鏡を眺めた。そうしたら兵助に、年頃だな、とあの無感情な顔立ちで事実を淡々と言われた。ちょっと本気で腹が立ったから兵助を蹴った。ら、思いの外痛いところを攻撃してしまったらしく、おもいっきり反撃されて、それにむしゃくしゃして反撃し返していたらついに長屋の天井に穴が開く事態になった。あーあ、なんでこんなろ組っぽいことになっちゃったんだろう。


「兵助のせいだ!」

「勘ちゃんが悪い!」


それでお互い半泣きになりながら庭に転がり出てやり合っていると、2つの顔が塀の向こうからひょいひょいと飛び込んできた。


「ただいまーってお前等何やって…」

「うるっせぇな全部お前のせいだよ!」


はぁ?!と全面的に心外そうに眉をひそめる鉢屋の隣で雷蔵が困ったように笑う。鉢屋のついでにきつく睨んでやると、そのどこか見下したような笑みはあきらかに俺に向けられていた。





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