「まだへこんでるんだ、柄にもなく」

「うるせぇな」

「あれはへこむよ、仕方ない」

「…うん、へこんでるよ。べっこべこだ」


畳に寝転がって無気力に私を見上げる妹はただいま失恋真っ只中だ。
別に修羅場があったりフられたりしたわけじゃない。ただちょっと壮絶な別れ方をしただけだ。生き別れというに相応しい別れ方だった。あれは。

雑巾を顔に落としてやる。
仮にも女とかそういう配慮はない。いらない。私たちは男女の前に清水家であって、それは誰よりも気高く生きた母に教わった。


「うわっ汚…なに、すんだ!」

「まぁほら、新しい恋でもしたら」

「は?」

「壬晴くんでいいんじゃないか、もういっそ」

「ちょ、ちょ、おい雷光」

「あ、申し訳ないけど俄雨はダメだよ。私の嫁だから」

「それ…本人に言うなよ、洒落にならないから」


はぁ、と気の抜けきったため息と共に妹は起き上がった。炭酸の抜けたコーラみたいだ。いつもならもっと爽快なツッコミが来るべきところだったのに。
妹はおもむろに立ち上がって汚い雑巾をくしゃくしゃに丸めると、おもいっきり息を吸った。


「ったく!手紙ぐらいやりとりできなきゃ、元気かどうかわかんねーっつのばーか!」


気分だけで投げられた雑巾は窓にぶつかって、青すぎる空に不甲斐なくつぶされた。

彼女はどうやら、失恋した気はないらしい。










「掃除してください」

「「すみません」」







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