三郎は僕とは違って、何かに決められたようにある境界線をきっちり守って生きている。
その線に他人が触れようとすると三郎はひどく恐がる。
5年間、誰よりも三郎の一等近くにいる僕でさえ、その線の先は阻まれるのだから、きっとずっとこれからもそうなのだ。

そういうのも別にいいと思う。親しき仲にもなんとやら、と言うし、三郎は別に人が嫌いなわけではなさそうだったし。
でも、三郎が人との間にその線を引かなくちゃいけなくなった何かを昔に経験したのだとしたら、それがとても彼の人生を濁らせているのだとしたら、僕はそれは許せない。


「…なにがあったんだい、三郎」


眠りながら泣いている三郎を、ただじっと見つめる。聞き取れないうわごとを繰り返す三郎は息苦しそうに泣きながら夢を見ている。
起こすか起こすまいか、僕はずっとずっと悩み続けている。
こんな時に僕の本領は遺憾なく発揮されて、かれこれ八つ時の昼寝からずっとこの静止が続いていた。もう日もとっぷり暮れて、いつもの3人はきっとすでに晩飯を食いながら、なぁあの2人は?なんて気遣ってくれているか、豆腐とおかずの交換に忙しくしてるに違いない。


「三郎、僕はどうしたらいいんだい」


迷ったときに、君がいないと僕は一生悩み続けてしまうんだと思うよ。ここに来ることさえも、そう、君が先にいたから僕も行くと決めたんだから。僕は君をなら選べるのに、僕に君のことを選ばせるなんて、そんなの選べないじゃないか。まるで誕生日のお祝いを考えさせられているようで、それが僕の1番苦手なことだと知っているくせに。


「三郎、」


三郎の胸に耳を当てる。
三郎が守っているその線は、本当に三郎を守っているんだろうか。


「っらい、ぞ……」

「この奥にある音の源なら、僕のほうがずっと大切に守るのに」


目を覚ました三郎の指先が僕の頭に恐る恐る触れる。はっきりと拒絶されるまでのあと数秒に浸るために、僕は目蓋を閉じた。
いつのまにかまた触れてしまって、ごめんね、三郎。









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