ブラッキーの熱が下がらない。さっき戦った野生のコンパンの解毒はしたが、体力が減っていたせいもあってか、苦しそうに大きく呼吸をくりかえす。


「ブラッキー」

「キィ………」


ポケモンセンターに行くにはこの山を下らないといけない。が、あいにく手持ちはこのブラッキー一匹。へたに動いて野生のポケモンに遭遇することだけは避けたい。もう日も暮れはじめている。
軽い気持ちで登れるような山じゃないことぐらい、わかっていたはずだった。のに。

(すこし会うだけ、なんて考えていたから)

ジャケットの中をさぐる。
手元にある道具といえば、なんでもなおしと食料とてがみと空のモンスターボール3つだけ。せめてむしよけスプレーの1本でもあれば、なんて後悔したところでもう遅い。


「仕方ない…なんでもいいからつかまえ…」

「キィッ!」

「っ、」


ブラッキーの毛が逆立ってしげみのむこうに向かって威嚇する。
この山に温厚なポケモンがいるなら、誰もここをバッジ16個の山にはしない。言うことをきかない四天王がわんさかいるようなふざけたところだ。

思わず舌打ちをした瞬間、枝をへし折ってリングマが勢いよく立ち上がる。
目に見えて分が悪い。
ブラッキーをボールに戻そうと手を後ろに回した。

刹那。
背後から突風が吹いた。


「ほんっと、ふざけてるよね、ポケモン一匹でシロガネ山とか」

「……雪山で半袖のバカに言われるのは心外だな」

「おれはリザードンがいるから平気なの」


かえんほうしゃ、と舌先で軽く転がした言葉とともに、矢のような熱風が放たれた。





とうめいな火







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