『だーからぁ、いまから検討委員会で抜けらんないんだって』

「ふーんわかった、おれたちより腹の出たおっさん達と先の見えないお茶会するほうがいいわけね、はいはい」

『ちょっ』

「いーもんおれもうはちふわとラブラブしてるもーん」

『っな、ふざけん』


プツ。


「……ふざけんなって…こっちの台詞だっての」

「どうしたの勘ちゃん」

「んー、やっぱ兵助来られないってさ」

「ああ、まぁそんな気はしてたけど」


鉢屋は興味なさそうに雑誌を読みながら半笑いでじゃがりこをじゃがじゃがする。いいなぁと思う。いやじゃかりこじゃなくて。
おれも鉢屋みたいに軽く生きていたいな、と思う。兵助が来られないだけでこんなに落ち込むなんて、あーあ、めんどくさい。それだけ兵助が大切なわけだよ、おれには。
でも兵助はおれよりおっさんが大事で、ていうか出世の方が大事で、おれは兵助の中で1番じゃないのにおれの中の兵助は1番なわけですよ。ずるいよ兵助。すきだよばか。


「勘ちゃん、ここおいで」

「……うん」

「らいぞー」

「はいはい、お皿洗ったらね」


ソファで仰向けの鉢屋が両腕を広げる。細っこい手首に藍色の数珠がよく似合っていた。雷蔵の手首には、同じ彩度の紅色の数珠。ふたりは血も心もつながっている。
おれは鉢屋の寝転がるソファに腰掛ける。ねぇ鉢屋。鉢屋はなんでこんなに軽いの。
疲れ切った視線で鉢屋を見つめると、なに悄気てんの、私たちとラブラブするんだろ、と肩を抱き寄せられる。
鉢屋の心臓の上に横になる。ノイズのように人間の血の流れがごうごう聞こえる。雑踏の中のひとりぼっちとどこか似ている。兵助のことが好きすぎて、息をするのももうめんどくさい。


「私にはこの重さが勘右衛門だと思うけど」

「……」

「立てなくなったら私の上に倒れろよ。一緒に沈んでやるし、なんなら人工呼吸ぐらいならしてやるから」

「…はち、」

「はい、おまたせー」

「よーし!それでははちふわサンドイッチを堪能したまえ尾浜勘右衛門くん」

「え、」

「いっくよー」

「カモーン」


ああ、息苦しいなぁ、まったく。









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