どんなところだった?と右手の骨を鳴らしながらペトロは公開処刑さながらにゆっくりと問うてくる。不要な問答はできれば避けたかった。それはペトロも同じだっただろう。一通り殴られた身体は更なる痛みを想像すると情けなく強張った。しがみつく名でもないくせに心臓は痛む。笑って見下ろしてくるペトロの向こうにある門は相変わらず残念なまでに安っぽい。運命と偶然の狭間に近い、どこでもない雲の端で身をすくめた。

「なあ、いま殴ったのより痛いところだったのか」
「さあ」
「さあってなんだよ」
「主がお受けになられた痛みに比べれば」

痛い、など嘆くことを許されてはいけない。辛かった、など甘えた言葉を口にする資格はない。私はただ消えない罪を免じられて這い上がってきただけなのだから、されるがまま、抗うべきではなかった。幸福や笑顔の届かないところで、静かに主に祈りを捧げることだけを知っていれば良かった。
ペトロは私の目線にしゃがむと、私の前髪を無造作に掴んで笑った。その右手が顔の骨をいくつか砕いてくれればいい。お互いのためにも私はそれを望んだのに。

「ユダっち、おかえり」

(果たして地獄とはあの場所のことだったのだろうか。贖えぬ罪のため永久の罰に身を委ねていたあの時間が地獄だったのだろうか。過ちを赦され、しかしそれが消えることなく、あの方の慈悲に拍車を掛けた存在として確立されているいま、これからの世界のほうが、私にとっては、本当の)

初めて、と言えるくらい、まっすぐにちゃんと見たペトロの目の色は、帰ってきた私を決して祝福してはいなかった。それだけが救いに思えたのだから、ああ、私は、本当にどうしようもなく救いがたい。



Lost requiem







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