「鉄丸さんが好きだから」

さらりとした解答に咳き込んだ。それが理由ってどうなの、と突っ込むまでもなく、どうしようもない理由だよな、と発言者自らぼんやりと宣うのでため息を吐くしかない。ハンカチで口元を拭う。せっかくのスパークリングワインが勿体ない。
おれはかつて1度だけ兵助を叩いたことがある。男同士が手を出した喧嘩にしては可愛らしいものだった。が、おれたちにできる精一杯の暴力沙汰で、一発ずつ、頬に平手でバチンと叩き合っただけだった。

「先手必勝って言うだろ」
「ふうん、じゃ負けるが勝ち」
「負け認めんの?」
「さぁ、まだ24年目だし、わかんない」

でも結局は勝たなきゃ意味がない、と言いながら兵助は細いワイングラスを傾ける。鉄丸さんと飲む予定だったフルーティな割に辛口のこのルナ デ ムルビエドロ・ブリュットのコルクをクリスマスよろしく、ポン、と抜いたのはおれだ。つい2時間前のこと。そう、兵助の携帯に鉄丸さんからの着信があったあのとき。
大体が人を失望させてばかりの兵助が目に見えて落胆する様は珍しいを越えて愉快だった。あ、はい、わかりました、というだけの事務的な会話の後に、勘右衛門、ワイン開けていいよ。と言ってソファに沈み込んだのを見て、桃鉄でもする?と持ちかけたのは半ばやけくそだ。おれだって相当期待して甘い甘いザッハトルテを選んだわけだし。
そう、兵助にビンタを食らったのも、絶対使わないという友情ルール破りの禁則カードを使ったときだった。お前だって俺にばっかり貧乏神付けやがって!!というわけで取っ組み合いになったおれたちをぽかりと叩いたのも確か、まだ手の節もそこまで深くなかった頃の鉄丸さんで。

「鉄丸さん、肉じゃが好きだからさ」
「ほんと、どうしようもないよな」
「うん」

良く味のしみた肉じゃがをつつきながら舞鶴にばっかり増資する兵助と一緒に、手元のコントローラーでサイコロを振りながら12月26日を迎えたおれももう十分アルコールが回っていて、同じくらいどうしようもないんだと思う。





25時ではもう遅い







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