高台にある塔の鐘が鳴ると勘右衛門は壁にかかった時計を見上げた。6時ちょうど。今日も時計は勘右衛門にささやかな期待と失望を与える。サイドテーブルの薄いティーカップの中身はもう空っぽだった。
適当に捲っていただけの季節はずれの雑誌をソファに投げて、行き先を探す腕で海の見える窓のカーテンを閉める。太陽が沈んでいくのを一緒に見たいから、と選んだ景色を並んで見たことはまだ1度もなかった。とりわけ今は冬なので、いまこの瞬間に玄関のドアが開いたとしても、2人でオレンジになってあたたかい時間を分かち合えることはない。もうとっくに暗くなった窓からは海岸に沿ってきらきらと踊る人口恒星がにぎやかだった。
勘右衛門が白と青の幅がまちまちのストライプのエプロンを後ろでリボンに結ぶと、ジリリリリ、と電話が鳴った。あえてアンティークな黒電話を選んだのは留守番電話がいやだったから、というのを勘右衛門は言わなかった。もともとちょっと変わったものが好きだという認識を持たれていたせいで、本当にお前は物好きだな、と言われるだけに留まっていた。

「はい」

5コール目で重い受話器を耳に当てた。長い線の中をぐるぐるまわって届いた声は、今日も勘右衛門にひしゃげた作り笑いをさせた。





ブロークン・オレンジ・ペコ









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