装束の袖で汗を拭って、息を整える。組み敷いた先生は割った竹と筆を持っていて、さらさらと、馬乗りになる俺を余所に何かを書き留めていた。それから俺を見上げて、減点。と言い放った。

「躊躇するなと言っておろうが」
「すいません」
「それからお前は昔から足が疎かだ」
「…自覚しています」
「精進するように」

先生の低い声が身体の下から響いてくる。なんとなく背徳感が背筋を辿ってきて、半信半疑のまま背を曲げてみる。ゆっくりと先生の顔の影になっていくのを、少し目を伏せて睫毛の隙から見つめてみる。言いつけに、返事をしなかったので先生の意識と視線だけがこちらに向いた。兵助?と、呼ばれ慣れているはずの自分の名前を呼ばれて、せんせい、と唇をゆっくり動かす。

「なんだ」
「どうやったら満点が取れますか」

首から垂れた髪が先生の鎖骨に落ちる。竹と筆の先生の視界に割り込むように、暗器の仕込まれた胸板に手を置いてさらに距離を近くする。一呼吸置いて、先生は呆れたように溜息を俺に吹きかける。もうその呼吸をもらえるほどには捕まえている。

「己に聞くことだな」
「そういうの、俺には難しいです」
「聞き分けのないやつだな」
「いけませんか」
「お前の中の満点はどこにある?」

筆がくるりと回る。そのまま後頭部を掴まれて、ぐ、と首元に引き寄せられた。この無骨な首筋に舌や歯を使うだけの度胸があれば、もう少し先があるのかもしれない。でも、俺にはそんなことできないと知っているから、先生は俺を父親のように抱きしめる。どっちのものかわからない心臓の音が震えていて悔しい。ずるい。先生はこうやってまた躊躇させるのだから。

「俺は自分の答えより、先生から最高得点をもらいたいだけです」

いまはまだ、縋るようにほっぺたを首筋に押しつけるだけで精一杯だった。






課題:久々木に挑戦する。レモンイエローで。


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