「これ先生にあげようと思ってたんですけどねー」
「もうほとんどないが」
「はい食べちゃいました」

先生の隣にちゃっかり座って服紗にもう数個しかない金平糖を数えていると、ぽかり、と加減をして頭を叩かれる。傷付きやすい年頃になんの傷も残さない程度の愛と優しさは物足りない。暴力反対ーと口を尖らせて訴えれば、無愛想な掌に額を覆われてそのまま膝の上に引き寄せられた。先生に背中を預けて、まるで親子。

「そんなに食べたかったならおれを食べちゃったらいいと思います」
「戯け。からかうな」
「本気ならいいでしょ」
「なおのことよくないわい」
「おれは間違えたりしないよ、先生」

好意の使い方も行為の忘れ方も、先生が心配するほど疎くない。ちゃんと知っている。だって先生が5年間おれを見てくれていたように、おれも先生のことを同じだけ見てきたから。
斜め後ろに見る、何か言い掛けようとした先生の口に金平糖を押しつける。そのまま指先で唇に触れて、顎先にかけてなぞってみる。そうやって顰めてみせる怖そうな顔が本当に好き。好きだった。昔から何回も何回も困らせてきた。もっとおれのせいで困ってほしい。困らせたい。

「ねぇ先生、早くあきらめてよ」

全然折れてくれなさそうな暖かい首の骨に、顔を寄せて鼻先を押しつけて笑った。






勘木がすごくきてて


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