ぼろ雑巾のような鉢屋を見つけたのは兵助だった。鉢屋!と鋭く叫んで弾かれたように飛び出しかけた兵助を慌てて取り押さえる。間一髪、頭上からの苦無は髪を掠めて地面に直立して、兵助は息を飲んだ。
戦場では、知った顔は十分敵だ。

「っ悪ィ、勘」
「しっ。3人だ兵助」
「、ん」

言葉もそこそこにばっ、と殺気の焦点から飛び退くと、いきなり銃声がこだました。うん。3、いや、4か。参ったな。火薬の匂いがしないのは、おそらく風下からの狙撃。
鉢屋が心配だ。
罠に使われた、ということは、最悪、もう息をしていない可能性がある。腹の底が冷える。殺意の輪から一歩引いて、迂回しながら風下へ駆けた。木の合間を縫う。鉢屋は、と一瞬横目で姿を辿れば。
(……いない?)

「っまさか」
「そんなわけないだろ」

不安に駆り立てられた刹那。意識を取られた隙。走る勢いのままにぐるりと体を抱え込まれて口を覆われた。
骨張った手。押し殺したような息遣い。嘘を纏うような匂い。
どん、と突き落とされたような心臓の喚起に寒気がした。これは反射的な硬直じゃない。与えられすぎた安堵に頭がついていかなかった。
(はち、や)

「勘右衛門ここにいてくれ。あと一匹だけなんだ」

すぐだから、と耳元に唇を寄せられて吹き込まれた勝ち誇った声。
きっと雷蔵はしない、したり顔で笑ってるんだろう。言われるまでもなく腰が抜けて動けなかったから、うん、と俯くのが精一杯だった。









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