「知ってるか。夕焼けを大事にする奴に悪い奴はいないんだ」

烏が夜を連れてきた。山際の橙は、もう瞬きのうちに消えてしまうだろう。その瞬間が見たいのだと言う勘右衛門の隣に三郎はいた。少し肌寒い風だった。だから隣合っていた。

「私は雷蔵と勘右衛門のそういう偽善じゃないところが好きだよ」
「珍しい。褒めてくれてる?」
「まぁな、雷蔵のおまけでな」

お前が、珍しいなぁ、と素直に笑うと、勘右衛門はそのまま黒に溶け込んでいった。糸が切れるようにふつり、と夕日は途絶えた。夜がきた。
三郎は雷蔵に似せた柔らかい茶に、埋もれるようにして膝を抱える。北からの風は木を枯らす。お陰で勘右衛門には、三郎の少し照れた顔は見えなかった。

「ありがとう。俺はそう言ってくれる鉢屋が好きだよ」
「へェ、じゃあもっと褒めてやろうか」
「よしてくれよ。これ以上好きにさせてどうするんだ」

勘右衛門は真面目に苦笑した。うん、どうしようか、と三郎はついに真っ赤になった顔を抱えた膝に押し付けた。









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