「勘ちゃあん」


背中に背中をくっつけてぐいぐいもたれかかってくる鉢屋はどうせまた気紛れなことを言いだすに決まってる。
は組ちゃんと寸劇やりたいとかドクタケのとこ遊びに行きたいとか豆腐の真ん中に辛子入れて兵助に食わせたいとか、あっそやれば、って言ってほしいんだろうなレベルの話に違いない。鉢屋の口から出る言葉の7割はどうでもいいJK。俺は爪を切る。


「おれに迷惑かかんないんだったらいいよ」

「あ、マジ?じゃあちゅうしたい、って言ったら?」


がり。
思わず親指を深爪した。


「勘ちゃーん、ねーってば聞いてる?ちゅうしたいんだけど、私は」


俺の動揺を知りもしないで、鉢屋は相変わらず俺の背中をぐいぐいしながら本を読みあさってる。
かまかけられてるのかなんなのか、いや、なんだろう、どうしたらいいんだろう。は?ふざけんなって言ったら、何本気にしてんのって笑われそうだし、すれば?って返したら、勘ちゃん結構私のこと好きだよねって笑われそうだし、うわ、やばい、詰んだ。死ね。


「なに、顔赤くして」


いつの間に振り向いたのか、耳の裏でそんなことを囁かれちゃ完敗だ。


「え、なに、私、雷蔵と」

「マジ死ね」

「うそうそ、ちゅうさせて」

「あほ失せろ」












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