「とどかないよ三郎」 ひどいなぁ、とため息をつけば、目を細めて躊躇された。触れてほしかったけど、それは言わないでおく。戸惑う口元が珍しくて嬉しかった。 まるでやっと鏡になれたかのようで。 「そばにいてはくれないのか」 「難しいね。元々は三郎が気まぐれに僕のそばにきたんじゃないか」 「でも、私は君を連れていきたい」 「ありがとう。でも」 本心だった。本心なんだよ三郎。本当に、僕は、君がそばにいてくれて、うれしいんだよ。君と行きたいんだよ。でもね。 「どうしても僕は君に、届かないみたいなんだ」 僕から触れた三郎は、とても虚しかった。瞳の真ん中を損失して、何も持っていなかった。 ばか、そんな顔するな、と両手で頬を包む。合わせ鏡のように、僕は三郎の瞳の中の僕を映して名前を呼んだ。 「だから不破雷蔵。お前は連れて行けないんだよ。ごめんな」 |