「なんでうそついたんだよ」 「うそつくの得意だから」 三郎は論理的に躱すとそっと花を添えた。三郎はうそつきだ。あまのじゃくだ。素直じゃなくて不器用だ。わかってるくせに知らん振りをする。とても自虐的に。今だって、つらいくせに笑ってる。ばかやろう。うそつくなよ、と再三突き付ければ、三郎は諦めたように笑った。 手向けた花は赤い。裏切られた愛のように、冷たくなった血のように。 「だって、みんながしあわせでいられるなら、それでいいじゃないか」 歳を重ねるにつれて、どうしようもないことに出会うようになった。 仕方がないと割り切れないことが増えて来た。神様や仏様がいないことを知って、それからいま生きていることの意味を求めるようになった。客観的に、統計的に、能率的に、合理的に。 なのに俺達はずっと人間のままで。 「なぁ三郎、お前つらいんだろ」 「だったらなんだ」 「それって、みんなしあわせとは言わねぇよ」 「…それでも、」 手を合わせる。しあわせとは無縁だ。 「みんなにとって、先輩方は永遠に優しい味方でなければならなかったから」 |