「鉢屋ってエロいよなぁ」
「失礼な。私だってさすがに下級生を食べてみたいなんて思ってない」
「いや思考じゃなくて」

ぺろ、と無防備だった鉢屋の鎖骨をためしに嘗めてみた。あ、みんな固まった。面白い。一瞬空いた空白の後、ぼん、と鉢屋が赤くなる。おおらしからぬ可愛い反応。

「…へ、すけ…」
「どっちかっていうと歩く猥褻物?」
「ふふ、兵助ったらお茶目さん」
「っ…!」

冗談を言ってみたら雷蔵に凄まじいデコピンをされた。いやたぶん冗談に対してのデコピンではないんだろうけども。しかしデコピンという名のライフルだった。やばいなにこれ血が出た。

「三郎大丈夫?ああ可哀相に…今すぐ僕が同じとこ舐めてあげ」
「ちょっ雷蔵?!俺、お前だけは信じてたんだけど!」
「ハチ甘いね、羊の顔してても男はみーんな狼なんだよ」
「お前が言うと洒落になんねーな!」
「ほら、三郎部屋戻ろっか」
「だめだかんな三郎!食われちまう!」

ばっと咄嗟にハチが鉢屋を庇う。その瞬間雷蔵の空気が変わる。やばい。もうここは共同戦線しか、ない。珍しく三郎は未だに呆けてるし。
ハチとばっちりアイコンタクトを取ると俺は咄嗟に雷蔵を後ろから羽交い締めにする。それを見計らってハチは鉢屋を抱え上げて一目散に走り出した。まさに忍技。ものの瞬きのうち。

「わ、ちょ」
「行けぇっハチ!!」
「おう!!」
「兵助、ハチ」
「え」
「僕に敵うとでも思ってるの」

ぶわ、とその低い声に総毛立つ。疑問符の追随さえ許さない圧倒的な高度。脳内で警鐘がわななく。生命の危機。ああこれは本当にあの不破雷蔵だろうか。否、雷蔵なのだろう。この悍ましくきれいな微笑みは。

「三郎。ほら、おいで」

硬直したハチの肩から鉢屋は申し訳なさそうにゆっくり降りると、くるりと振り向いて、雷蔵、とまるで乞うように呟いた。その表情が苦しいくらい切ない。なのに、鉢屋は従順に雷蔵の傍に寄る。
俺に捕まる雷蔵を見ると、鉢屋はそっと俺の手に触れて、雷蔵を放してくれ、と静かにしたたかに笑った。完全なる、敗北。

「さぁ雷蔵、部屋に戻ろう」
「うん。そうだね、三郎。いっぱいしてあげるよ」
「ありがとう」

鉢屋は柔らかく解放された雷蔵を抱きしめると、雷蔵も挨拶のようにふんわり鉢屋を抱きしめた。まるでお互いに浄化し合うかのように。

「兵助、ハチ。三郎が欲しい?」

鉢屋の耳から顎にかけて雷蔵の指先がこれみよがしに滑る。そしてその唇に親指が這うと、鉢屋が当たり前のように小さく舐めた。だめだ、エロくて見てられない。思わず口を押さえる。

「あーげない」

そんな俺を見下したかのように、雷蔵は無邪気なくらい愉しそうに嗤った。









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