不破はぼんやりと忍務に相応しくない満月を見上げた。
今回の忍務の忍頭はちっとも喋らなかった。それが何か不満というわけではない。不破にとって言葉は何を意味するものでもなく、何を形作っているわけでもなかった。そうすれば物事の始まりもなく、また終わりもないことを知っていた。そしてそれが忍にとっての一番の幸福であることも。


「僕の最も近しい友人は口を開けば嘘ばかり、ろくなことを喋りませんでした。だから僕は言葉に頼らないあなたは信頼に足ると思っています」


別にそいつを信じていないわけではないですが、と不破は忘れず付け加える。


「……」


視線を向けても何も言わない忍頭に不破は少し険しい顔になる。
語らない横顔の奥に、死を恐れてしまいそうになるあたたかな過去が過った。誰よりも尊敬したその人の空気がそこにあった。そう感じた瞬間、6年の歳月を歩んだ声が、温度が、想いが、火が点いたように鮮明に思い出されて、不破の身体に流れる血を実感させる。思わず戦慄するほどに、それは恐怖に近い感情になって目の前を暗くさせる。
不破はもう一度月を見上げて、痛いくらいに新しい夜風を吸った。その横顔を忍頭はちらりとだけ見て、また眼下の城に意識を戻した。
互いに言葉に意味を感じていなくとも、その言葉の重さを知っている。


だから不破がこの任務の最初から最後までに話した言葉も、ただただそれだけだった。









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