「お、またこんなところにいる」

ハチは頼んでもいないのに私の隣にどっかり腰をおろした。忍術学園が一望できるこの場所は雷蔵すら連れて来たことがない。ていうかなんかカメムシ臭い。頬杖を付いたまま、ちらりとハチを見れば、この絶景なんて興味がないらしく、肩から下げている今日の収穫を数えていた。

「ハチ、カメムシ臭い」
「ん?気のせいだろ」
「いやいやいや気のせい違う」
「まぁ森なんだしカメムシぐらいいるって」
「いやハチが来た途端臭くなった。絶対ハチに付いてる」
「あ、そう」
「あそうじゃなくてどっかいけよ、臭い」
「やーだ」

この野郎。
こうなったら鉢屋三郎必殺お色気の術で惨めな目に遭わせてやろうか。とそこまで考えてやめる。白粉の無駄だ。

「ハチはさ」
「んー、おう」
「私を愛してくれた人によく似てる」
「え、雷蔵に?」
「いやいや雷蔵がいつ私を愛した」
「愛してるだろ日々」
「…ハチは、私の、養父に、さ」

言ってから後悔した。私としたことが自らのことを語るなんて、しかもこのカメムシ野郎にぽろりなんて、今日は厄日だ。多分この前殺した豪商の怨念だ。たぶんそんな感じ。

「三郎はさ」
「え、なに」
「俺の飼ってた犬によく似てる」
「人外かよ心外だな」
「だってお前、人間っぽくねぇだろ」

けたけた笑うその笑顔もよく似ていた。もうあんまり覚えてないけど。









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