部屋に帰ると部屋はめちゃくちゃだった。主にこの二人部屋がめちゃくちゃになる原因は僕の適当さが主だったけれど、いつも三郎が片付けてくれるから、三郎がいるかぎり部屋がめちゃくちゃになることはなかった。
だから、三郎が学園長や山田先生にたまに厄介な頼まれごとをされて(いわく、恩があるらしい)しばらく部屋を留守にすると、帰還第一声は「あー汚い」とか「やはり私がいないとだめだな」になる。
だから三郎自身がこの部屋をめちゃくちゃにしてしまったんじゃあ、もう終わりだ。それに僕が「片付けて」なんて言える立場でもないし。

「何してるの」

唯一言えたのがそれ。三郎は白粉や紅や髪の毛の、所謂商売道具を傍らに侍らせて、仰向けに転がっていた。顔に手ぬぐいがかかっていたのでふわりとそれを取り上げると、僕の顔だったことにすこし安堵する。それが見知らぬ顔だったら僕は気が狂っていたかもしれない。

「顔をね忘れてしまったんだ」
「誰の?」
「私の父と母の」

僕を見つめて三郎はすこしだけ笑った。

「いいんじゃない。僕の顔だけ覚えてれば」

我ながらひどいことを言うもんだなぁと思う。でも、三郎が、それもそうだな、と楽しそうに笑ったから適当に僕も笑った。
彼の葛藤の痕跡は、割れた鏡を見てもわかる。なんとなく、今日は僕が片付けてみようかな、と思った。









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